・・・ どうか僕の友のために、杯をあげてくれたまえ、彼の将来を祝福して! 国木田独歩 「非凡なる凡人」
・・・この意味でニイチェのいわゆる一回性の法則は、さまざまの現実的事情あるにもかかわらず、永遠に恋愛と結婚との最も祝福された真理であるといわねばならぬ。 四 恋愛――結婚 恋愛のような人生の至宝に対しては、私たちはでき得る・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・それを祝福する内意もあり、わずかではございますが、奉仕させていただきたく存じます。 その奉仕の品品が、入口の傍の硝子棚のなかに飾られている。赤い車海老はパセリの葉の蔭に憩い、ゆで卵を半分に切った断面には、青い寒天の「壽」という文字がハイ・・・ 太宰治 「逆行」
・・・ 外国へ行くのは、おっくうだが、こらえて三年おれば、大学の教授になり、母をよろこばすことが出来るのだと、周囲には祝福せられ、鹿島立ちとか言うものをなさるのが、君たち洋行者の大半ではなかろうか。それが日本の洋行者の伝統なのであるから、碌な・・・ 太宰治 「如是我聞」
・・・かつて祝福されたる人。ダンテの地獄篇を経て、天国篇まで味わうことのできた人。また、ファウストのメフィストだけを気取り、グレエトヘンの存在をさえ忘れている復讐の作家もある。私には、どちらとも審判できないのであるが、これだけは、いい得る。窓ひら・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・ドイツの大家プランクはこの論文を見て驚いてこの無名の青年に手紙を寄せ、その非凡な着想の成効を祝福した。 ベルンの大学は彼を招かんとして躊躇していた。やっと彼の椅子が出来ると間もなく、チューリヒの大学の方で理論物理学の助教授として招聘した・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・それどころか、かれらが人間から軽侮される生活そのものが、実は人間にとって意外な祝福をもたらす所以になるのである。 鳥や鼠や猫の死骸が、道ばたや縁の下にころがっていると、またたく間に蛆が繁殖して腐肉の最後の一片まできれいにしゃぶりつくして・・・ 寺田寅彦 「蛆の効用」
・・・公園の木立ちも行きかう電車もすべての常住的なものがひどく美しく明るく愉快なもののように思われ、歩いている人間がみんな頼もしく見え、要するにこの世の中全体がすべて祝福と希望に満ち輝いているように思われた。気がついてみると両方の手のひらにあぶら・・・ 寺田寅彦 「コーヒー哲学序説」
・・・それどころか彼らが人間から軽侮される生活そのものが実は人間にとって意外な祝福をもたらすゆえんになるのである。 鳥やねずみや猫の死骸が道ばたや縁の下にころがっているとまたたく間にうじが繁殖して腐肉の最後の一片まできれいにしゃぶり尽くして白・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・これは僕にとって、嘆くべきことか祝福すべきことか解らない。 その上にまた、最近家庭の事情も変化した。僕は数年前に妻と離別し、同時にまた父を失ってしまった。後には子供と母とが残ってるが、とにかく僕の生活は、昔に比して甚だ自由で伸々して来た・・・ 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
出典:青空文庫