・・・宝剣は唾にまみれると同時に、たちまち神通力を失ったのか、ばたりと床の上へ落ちてしまった。 金応瑞は大いに吼りながら、青竜刀の一払いに行長の首を打ち落した。が、この恐しい倭将の首は口惜しそうに牙を噛み噛み、もとの体へ舞い戻ろうとした。この・・・ 芥川竜之介 「金将軍」
・・・こう言う大慈悲心を動かした如来はたちまち平生の神通力により、この年をとった除糞人をも弟子の数に加えようと決心した。 尼提の今度曲ったのもやはり前のように狭い路である。彼は後を振り返って如来の来ないのを確かめた上、始めてほっと一息した。如・・・ 芥川竜之介 「尼提」
・・・「……我常住於此 以諸神通力 令顛倒衆生 雖近而不見 衆見我滅度 広供養舎利 咸皆懐恋慕 而生渇仰心……」 白髪に尊き燈火の星、観音、そこにおはします。……駈寄って、はっと肩を抱いた。「お祖母さん、どうして今頃御経を誦むの。」・・・ 泉鏡花 「第二菎蒻本」
・・・なぜかならいくら風のように速い深谷であっても、神通力を持っていないかぎり、そんなに早くグラウンドを通り抜け得るはずがなかったから。「奴も腹這いになって、障害物のない所で見張ってやがるんだな」 安岡は、自分自身にさえ気取られないように・・・ 葉山嘉樹 「死屍を食う男」
出典:青空文庫