・・・日本精神の真髄は、何処までも超越的なるものが内在的、内在的なるものが超越的と云うことにあるのである。八紘為宇の世界的世界形成の原理は内に於て君臣一体、万民翼賛の原理である。我国体を家族的国家と云っても、単に家族主義的と考えてはならない。何処・・・ 西田幾多郎 「世界新秩序の原理」
・・・古い説かも知らんが私の知ってる限りじゃ、今迄の美学者も実感を芸術の真髄とはせず、空想が即ち本態であるとしている。この空想とは、例の賊に追われたことを後から追懐する奴なんだ。そうすると小説は第二義のもので、第一義のものじゃなくなって来る。否、・・・ 二葉亭四迷 「私は懐疑派だ」
・・・ただ漢語を用い、いたずらに佶屈の句を作り、もって蕪村の真髄を得たりとなすもの、いまだ他の半面を解せざるべし。俗語 の最俗なるものを用い初めたるもまた蕪村なり。元禄時代に雅語、俗語相半ばせし俳句も、享保以後無学無識の徒に翫弄せらるるに至っ・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・そして生涯精励であるいかなる作家も、最後には、自分で書ききれない一篇の小説を、自分の人生の真髄に応じて後に生きつづけてゆく者の間へ遺すものだということにこころうたれた。 宮本百合子 「あられ笹」
・・・小説というものの真髄は昔っから型にはまった所謂小説らしさにあるのではないことは自明であるし、狭い好みでの心境描写にないことも今日では明かと思う。しかしながら、昔の言いかたでの小説ではなくても、それが芸術作品であり文学であり得るためには、やは・・・ 宮本百合子 「「結婚の生態」」
・・・生命の本源、生存の真髄は決して、ナレッジで啓かれ、触れられると思わない。大なる直覚、赤児のような透視無二無私に 瞳を放つ処に真の根源があると思う。我等は、教育の概念にあやまたれ社会人の 才に煩わされホメロ・・・ 宮本百合子 「五月の空」
・・・ 地方の大学の老教授で、家庭生活では気づよい実際的な妻におされているスーザンの父が、可愛がって手ほどきしてやった彫刻への興味は、大学生活を終ったスーの生活の真髄からの欲望となって来ている。幼馴染で、謙遜で、スーザンの内面的な強烈さ、優秀・・・ 宮本百合子 「『この心の誇り』」
・・・従って生活感情の真髄が狭い心の中の狭い体験が多い関係から、女性の作り出す創作には本当にユニックなものが乏しい。類型的でなくなる努力、淡泊さ、見栄え等を本当のものにする精進、性の上から来る色々の欠陥と不自由、それから脱出する苦悶――女性は芸術・・・ 宮本百合子 「今日の女流作家と時代との交渉を論ず」
・・・坪内逍遙の「小説神髄」が日本の近代小説への道を示したことは周知である。文芸理論に於てはヨーロッパの評論、文学評価を学んで封建的善玉悪玉の観念を排し、社会と人間との現実を描くことを慫慂した逍遙が、「当世書生気質」の描法にはおのずから自身が明治・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・は、日本の近代文学の第一歩の導きとなって彼の近代小説論「小説神髄」の創作的実験であったが、その作品の世界は書生という姿に於て踏襲されている昔ながらの遊蕩の世界であり、その遊蕩というものに対する作者の態度も、戯作者的現実追随の域を脱していなか・・・ 宮本百合子 「作家と教養の諸相」
出典:青空文庫