・・・それよりも今さし当たって自分はなんとなく北米や南米における日本移民排斥問題を思い出させられる。 南半球の納豆屋さんには日本から飛んで来る蜜蜂が恐ろしいのである。 二 庭と中庭との隔ての四つ目垣がことしの夏は妙・・・ 寺田寅彦 「破片」
・・・は、三十年もアメリカに移民労働者として辛苦の生活をしている動物と子供のすきな日本人中野が、市場で亀をひろって育てたことから亀のチャーリーとあだ名され、アメリカの子供の人気を博しつつ、日本の切手や菓子その他を宣伝用具として子供らを教育し、ピオ・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
二、三日前の新聞に、北満の開拓移民哈達河開拓団二千名の人々が、敗戦と同時に日本へ引揚げて来る途中、反乱した満州国軍の兵に追撃され、四百数十名の婦女子が、家族の内の男たちの手にかかって自決させられたという記事がありました。・・・ 宮本百合子 「講和問題について」
・・・二十年アメリカの移民の間に暮しても尚そういう感情であるというのは、他の一面の熱っぽいところ、ものに正面から当って行こうとするところとひどい矛盾であって、その矛盾は滑稽に近いものとなっていることが分っていない。――大変面白いのです。人間観察と・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・が、八月十五日から数日たってやっと降伏した知らせが届いた満蒙奥地の開拓移民団の正直な老若男女が、ことの意外におどろいて数百名の生死を賭す団の進退をうちあわせようと駆けつけたときには、もうどこにも関東軍の影はなかった。そのために、うちすてられ・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
・・・ 十七年振りでアメリカから帰朝した佐藤俊子氏が、十七年留守をしていたということから生じた却って一種の清純さ、若々しさでアメリカにおける日本移民、第二世の生活を「小さき歩み」に進歩的な目で描いたのは興味あることであった。 国際ペンクラ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・アメリカに移民として働いている日本人の不正入国をしたものが何より恐れているのは、アメリカ人であるか、ニグロであるか、或は同じ日本人であるか。 科学者は科学的であるかという悲しい疑問が心に湧くのを抑えがたいのである。社会の歴史の或る波によ・・・ 宮本百合子 「作家のみた科学者の文学的活動」
・・・しかし、周囲の生活の内容は谷中天王寺町の小さい庭をもった家の中でのものとすっかりちがい、一人の婦人作家を、その日常の生活でカナダにおける移民問題の中へ、第二世問題の中へ押し出した結果となった。 ジュンというノルマル・スクールに通っている・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・それは主人公宗一の移民としての日常生活があまり深く現実的にかかれていないところからも来ると思う。文章に、移民生活らしい根気よさ、重さ、ねばりがにじみ出していないところも、全体の作品の肉づけをうすくしていると思った。「市設紹介所」 和久・・・ 宮本百合子 「小説の選を終えて」
・・・ ブラジルでコーヒー畑の間を歩いて居る裸足の日本海外移民の魂には消えぬ望郷がある。日本にしかないソーユが構成した生理的望郷がある。ワシントン市在留駐米日本大使の知らぬこれは強烈な感覚的思慕だ。北緯四十*度から**度の間に弦に張られた島 ・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
出典:青空文庫