・・・ さて一方文学を攷察して見まするにこれを大別してローマンチシズム、ナチュラリズムの二種類とすることが出来る、前者は適当の訳字がないために私が作って浪漫主義として置きましたが、後者のナチュラリズムは自然派と称しております。この両者を前に申・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・ショーペンハウエルの説によれば、詩人と、哲学者と、天才とは、孤独であるように、宿命づけられて居るのであって、且つそれ故にこそ、彼等が人間中での貴族であり、最高の種類に属するのだそうである。 しかし孤独で居るということは、何と云っても寂し・・・ 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
・・・ それは筆紙に表わし得ない種類のものであった。 深谷は、一週間前に溺死したセコチャンの新仏の廓内にいた! 彼のどこにそんな力があったのであろう。野球のチャンが二人でようやく載っけることができた、仮の墓石を、深谷のヒョロヒョロな手・・・ 葉山嘉樹 「死屍を食う男」
・・・に、別世界は別世界相応の話柄の種も尽きぬものか、朋輩の悪評が手始めで、内所の後評、廓内の評判、検査場で見た他楼の花魁の美醜、検査医の男振りまで評し尽して、後連とさし代われば、さし代ッたなりに同じ話柄の種類の異ッたのが、後からも後からも出て来・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・其趣は西洋の文典書中に実名詞の種類を分けて男性女性中性の名あるが如く、往古不文時代の遺習にして固より深き意味あるに非ず。左れば男子は活溌にして身体強大なるが故に陽の部に入り、女子は静にして小弱なるが故に陰なりなど言う理窟もあらんかなれども、・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
・・・ あなたのような種類の人、あなたのように智慧がおありになり、しっかりしておいでになって、そして様子のいいお方、そう云う人にイソダンでめったに出逢うことのないのは当り前でございます。わたくしはすぐにそう思いました。こう云う人の前に出たら、・・・ 著:プレヴォーマルセル 訳:森鴎外 「田舎」
・・・○くだものと気候 気候によりてくだものの種類または発達を異にするのはいうまでもない。日本の本州ばかりでいっても、南方の熱い処には蜜柑やザボンがよく出来て、北方の寒い国では林檎や梨がよく出来るという位差はある。まして台湾以南の熱帯地方では・・・ 正岡子規 「くだもの」
・・・すると父がまたしばらくだまっていたがとにかくもいちど相談するからと云ってあとはいろいろ稲の種類のことだのふだんきかないようなことまでぼくにきいた。ぼくはけれども気持ちがさっぱりした。五月十三日 今日学校から帰って田に行ってみたら・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・たちの現実的な感情にとってはすぐ何のことか会得しかねる種類の修辞であろうと思われる。 尾崎士郎氏は名調子の感傷とともにではあるが、それとは異った他の人間的情況のスナップをつたえようとしている。榊山氏の文章は虚無的な色調の上に攪乱された神・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・更に反対の方面を見ると、信仰もなくしてしまい、宗教の必要をも認めなくなってしまって、それを正直に告白している人のあることも、或る種類の人の言論に徴して知ることが出来る。倅はそう云う人は危険思想家だと云っているが、危険思想家を嗅ぎ出すことに骨・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫