・・・「何でも突き当りに寺の石段が見えるから、門を這入らずに左へ廻れと教えたぜ」「饂飩屋の爺さんがか」と碌さんはしきりに胸を撫で廻す。「そうさ」「あの爺さんが、何を云うか分ったもんじゃない」「なぜ」「なぜって、世の中に商売・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・広い世界を、広い世界に住む人間が、随意の歩調で、勝手な方角へあるいているとすれば、御互に行き合うとき、突き当りそうなときは、格別の理由のない限り、両方で路を譲り合わねばならない。四種の理想は皆同等の権利を有して人生をあるいている。あるくのは・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ お梅が幾たび声をかけても、平田はなお見返らないで、廊下の突当りの角を表梯子の方へ曲ろうとした時、「どこへおいでなさるの。こッちですよ」と、声をかけたのは小万だ。「え、何だ。や、小万さんか。失敬」と、平田は小万の顔を珍らしそうにみつ・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
・・・ 結局、今の横文帳合はなにほどに流行するも、早晩、いずれのところにか突当りて、上流と下流との関所を生ぜざるをえず。縦の帳合はその入門の路、たとい困難なるも、関所を生ずるの患なし。たとえば今、日本大政府の諸省に用うる十露盤も、寒村僻邑の小・・・ 福沢諭吉 「小学教育の事」
・・・ 家へは帰らずジョバンニが町を三つ曲ってある大きな活版処にはいってすぐ入口の計算台に居ただぶだぶの白いシャツを着た人におじぎをしてジョバンニは靴をぬいで上りますと、突き当りの大きな扉をあけました。中にはまだ昼なのに電燈がついてたくさんの・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・ブドリは玄関に上がって呼び鈴を押しますと、すぐ人が出て来て、ブドリの出した名刺を受け取り、一目見ると、すぐブドリを突き当たりの大きな室へ案内しました。 そこにはいままでに見たこともないような大きなテーブルがあって、そのまん中に一人の少し・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・そして、秋の末頃の朝、弟と二人で、武蔵屋の横丁から斜に東片町の大通りを横切って、突当りに学校が見える横通りに出て見よう。 何といっても、朝は門が開かないうちに行くのが嬉しかった。十分か十五分、級の違う他の子供と一緒に傍のトタン塀によりか・・・ 宮本百合子 「思い出すかずかず」
・・・流しから曲ったところが三尺に一間のコンクリで、突当りに曇った四角い鏡が吊ってある。看守が用便中のものを監視する為の仕かけである。窓のない暗い便所にかがんでいる間、自分の頭は細かくいろいろな方面に働いた。そして、聞いたばかりの短い言葉から推察・・・ 宮本百合子 「刻々」
・・・という古い建築物に突き当ります。 昔、或る特別な貴族階級に丈、使用された浴場の跡らしいものでした。そして、そこ丈が、あたりの寺院とか神社の建物と異った一種の趣きを現わしていました。 加之、そこには昔ながらの建物に相応しい藤棚があり、・・・ 宮本百合子 「「奈良」に遊びて」
・・・一丁目の停留場で降り、本郷から来ると右側の、石勝と云う石屋の横を入って、突当りから左に小一町行った処にあると云うのである。天気のよい日で、明るい往来に、実に尨大な石の布袋が空虚な大口をあけて立って居る傍から入ると、何処か、屋敷の塀に一方を遮・・・ 宮本百合子 「又、家」
出典:青空文庫