・・・「笑い事じゃないぜ。ここにいる事が知れた日にゃ、明日にも押しかけて来ないものじゃない。」 牧野の言葉には思いのほか、真面目そうな調子も交っていた。「そうしたら、その時の事ですわ。」「へええ、ひどくまた度胸が好いな。」「度・・・ 芥川竜之介 「奇怪な再会」
・・・それから、ご亭主も、仕方無さそうに苦笑いして、「いや、まったく、笑い事では無いんだが、あまり呆れて、笑いたくもなります。じっさい、あれほどの腕前を、他のまともな方面に用いたら、大臣にでも、博士にでも、なんにでもなれますよ。私ども夫婦ばか・・・ 太宰治 「ヴィヨンの妻」
・・・ますから、たとい半狂乱の譫言にもせよ、悪魔だの色魔だの貞操蹂躙だのという不名誉きわまる事を言われ、それが世間の評判になったら、もうそれだけで自分の将来は滅茶苦茶になるのではあるまいかと思えば、じっさい笑い事ではなく、まだ私も若かっただけに、・・・ 太宰治 「男女同権」
出典:青空文庫