「小説修業に就いて語れ。」という出題は、私を困惑させた。就職試験を受けにいって、小学校の算術の問題を提出されて、大いに狼狽している姿と似ている。円の面積を算出する公式も、鶴亀算の応用問題の式も、甚だ心もとなくいっそ代数でやれ・・・ 太宰治 「答案落第」
・・・分装飾のつもりで嵌められてあったニッケルの帽子のようなものを取外してそれをシャーレの水面に浮かべ、そうしてそれをスフェロメーターの螺旋の尖端で押し下げて行って沈没させ、その結果から曲りなりに表面張力を算出して先生にほめられたりしたことが今思・・・ 寺田寅彦 「科学に志す人へ」
・・・これを客観的に識別しようとすればめんどうな分析法によって多数の係数を算出し、さらにそれを統計にかけて表示しなければならない。さらにまた、盲人の触感は猫の毛の「光沢」を識別し、贋造紙幣を「発見」する。しかし、物の表面の「粗度」の物理的研究はま・・・ 寺田寅彦 「感覚と科学」
・・・それで列車の実際の長さがわかっていれば、その時の飛行機の高度が算出される勘定である。しかし、多くの人はこういう場合に単に汽車が一尺ぐらいに見えたとか橋がマッチぐらいだったとか言う。これは科学的にはほとんど無意味な言葉である。それにもかかわら・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・磁石とコンパスでこれらの雲のおおよその方角と高度を測って、そして雲の高さを仮定して算出したその位置を地図の上に当たってみると、西は甲武信岳から富士箱根や伊豆の連山の上にかかった雲を一つ一つ指摘する事ができた。箱根の峠を越した後再び丹沢山大山・・・ 寺田寅彦 「春六題」
・・・ たとえば子音転訛の方則のごときでも、独断的の考えを捨てて、可能なるものの中から甲乙丙……等の作業仮定を設けて、これらにそれぞれ相当するPを算出し、また一方この仮定による実際の比較統計の符合の率を算出し、この両者を比較して、その結果から・・・ 寺田寅彦 「比較言語学における統計的研究法の可能性について」
・・・ 五ヵ年計画は農村に三十万台のトラクターを、工場へ二百二十億キロワット時の電力を増大するとともに、文盲撲滅費二億四千六百三十万留を算出している。そして、千八百万人の文盲を清算しつつある。既に一九二八年には百三十六万五千余人が、完全に文盲・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・向って招かれている一方では、女の職業というものを一時的に見る習慣がますます固執されていて、この間きめられた女子の賃銀の規定も、現在の平均が女の収入は男の収入のほぼ三分の一であるというところに立ったまま算出されていることである。そういう部面を・・・ 宮本百合子 「働く婦人の新しい年」
・・・そうだとすれば、どこの家の家計簿も、やすやすと世帯主三〇〇円、一人ます毎の一〇〇円也の預金引出しを算出しかねるわけである。この一点からも、モラトリアムで本当に困るのは、やっぱり金を持たぬ多数者というこれまで政府がとって来たおなじ方向の一つな・・・ 宮本百合子 「モラトリアム質疑」
・・・地代は平面で算出されます。其故、上へ上へと積上げた空間のそのまた平面を、最少限の面積で、最大限の能率に活かすアパートメント経営者の、才覚にほかなりません。そういう人間用の巣箱を「わが家」と呼んで、近代社会の何千万人が、せせこましい、律気な、・・・ 宮本百合子 「よろこびの挨拶」
出典:青空文庫