・・・殊にも算術などが大へん下手になるのです。ですから斯う云う旅行のはなしを聞くことはみなさんにも決して差支えありませんがあんまり度々うっかり出かけることはいけません。 まあお話をつづけましょう。なあにほんとうはあの茨やすすきの一杯生えた野原・・・ 宮沢賢治 「茨海小学校」
・・・三次の日学校の一時間目は算術でした。キッコはふとああ木ペンを持っていないなと思いました。それからそうだ昨日の変な木ペンがある。あれを使おう一時間ぐらいならもつだろうからと考えつきました。そこでキッコはその鉛筆を出して先生・・・ 宮沢賢治 「みじかい木ぺん」
・・・の中には、女学校に入る娘を博物館の勤めさきまでつれて行ってやって算術の稽古をしてやっている父鴎外の姿が、溢れるなつかしさをこめて描かれている。従って、子供たちが、有形無形に父から与えられているものは、深く、しっかり根を張っているであろう。女・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・一日おき位に、放課後一時間か二時間いのこり、算術や国語の特別課業を受ける時も、一つの読み間違い、一つの式の立て違いが、何だか、みな遠い彼方で、入学試験の間違いと連絡していそうな気がする。 私は、他の多くの友達と一緒に受持の先生がいられな・・・ 宮本百合子 「入学試験前後」
・・・のちに知行二百石の側役を勤め、算術が達者で用に立った。老年になってからは、君前で頭巾をかむったまま安座することを免されていた。当代に追腹を願っても許されぬので、六月十九日に小脇差を腹に突き立ててから願書を出して、とうとう許された。加藤安太夫・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・ 最初は算術の時間で、仮分数を帯分数に直した分子の数を訊かれた時に黙っていると、「そうれ見よ。お前はさっきから窓ばかり眺めていたのだ。」と教師に睨まれた。 二度目の時は習字の時間である。その時の吉の草紙の上には、字が一字も見あた・・・ 横光利一 「笑われた子」
出典:青空文庫