・・・ その他の曲にはなかなか複雑な仕組みのものもあったが、たとえば大小の弦楽器が多くは大小の曲線の曲線的運動で現わされ真鍮管楽器が短い直線の自身に直角な衝動的運動で現わされたり、太鼓の音が画面をいっさんに駆け抜ける扇形の放射線で現わされたり・・・ 寺田寅彦 「踊る線条」
・・・うちの器械で鋼鉄の針でやる時にあまりに耳立ちすぎて不愉快であったピッコロのような高音管楽器の音が、いい器械で竹針を用いれば適当に柔らげられ、一方ではまた低音の弦楽器の音などがよほど正常の音色を出す事を知った。 年の暮れに余分な銭のあった・・・ 寺田寅彦 「蓄音機」
・・・季題の句が弦楽器であれば、雑の句はいろいろの管楽器ないし打楽器のようなものである。連俳を交響楽たらしむるのは実に雑の句の活動によるのである。その中でも古来最も重要なものとされているのは恋の句であり、これがなければ一巻をなさぬとされている。・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・秋の部の其角孤屋のデュエットを見ると、なんとなく金属管楽器と木管楽器の対立という感じがある。前者の「秋の空尾の上の杉に離れたり」「息吹きかえす霍乱の針」「顔に物着てうたたねの月」「いさ心跡なき金のつかい道」等にはなんらか晴れやかに明るいホル・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
出典:青空文庫