・・・作者は、取扱おうとしている現実にはよく通じているのであるけれども、作品での構成は、規模の大きい割にルーズであり、平板であり、筆致もやや粗いのは遺憾である。このために、中国の生活の推移を語る莫莫やキータの性格や行動が漠然としてしまっている。軍・・・ 宮本百合子 「「揚子江」」
・・・ * * * 電灯の明るく照っている、ホテルの広間に這入ったとき、己は粗い格子の縞羅紗のジャケツとずぼんとを着た男の、長い脚を交叉させて、安楽椅子に仰向けに寝たように腰を掛けて・・・ 森鴎外 「沈黙の塔」
・・・「おもちゃの形而上学です。」「人の体も形が形として面白いのではありません。霊の鏡です。形の上に透き徹って見える内の焔が面白いのです。」 久保田が遠慮げにエスキスを見ると、ロダンは云った。「粗いから分かりますまい。」 しばらくして・・・ 森鴎外 「花子」
出典:青空文庫