・・・ている小径――その向こうをだらだらと下った丘陵の蔭の一軒家、毎朝かれはそこから出てくるので、丈の低い要垣を周囲に取りまわして、三間くらいと思われる家の構造、床の低いのと屋根の低いのを見ても、貸家建ての粗雑な普請であることがわかる。小さな門を・・・ 田山花袋 「少女病」
・・・鳥瞰図式の粗雑なものはあったが、図がはなはだしく歪められているので正確な距離や方角の見当がつかないし、またどのくらい信用出来るかも不明である。鉄道省で出来た英文のモーターロードマップがあって、これは便利であるが、あまりに簡単でその道路と他の・・・ 寺田寅彦 「異質触媒作用」
・・・を飾っているようなあたまの粗雑さを成立条件とする種類の文学はなくなるかもしれないという気がする。 寺田寅彦 「小爆発二件」
・・・これから思うと例えば大雅堂や高陽などの粗雑なような画が見る人を包み込む魔力を今更のように驚かないではいられない。 それにしても私にはどうして世間から承認された大家の作品の多くのものに共鳴が出来ないだろう。そういう絵の多くは実によく「完成・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・幽玄でなく、さびしおりのないということは、露骨であり我慢であり、認識不足であり、従って浅薄であり粗雑であるということである。芭蕉のいわゆる寂びとは寂びしいことでなく仏教の寂滅でもない。しおりとは悲しいことや弱々しいことでは決してない。物の哀・・・ 寺田寅彦 「俳諧の本質的概論」
・・・ いつでも思う事ではあるが、いかに精巧をきわめた造花でも、これを天然の花に比べては、到底比較にならぬほど粗雑なものである。いつかアメリカのどこかの博物館で、有名な製作者の造ったというガラスの花を見たが、それも天然の花に比べてはまるで話に・・・ 寺田寅彦 「病室の花」
・・・ このように外界の存在を認めその現象を直接に感ずるのは吾人の感官によるほかはないのにその感官がすこぶる粗雑なものであってしかも人々個々に一致せぬものである。それで各人が自分の感覚のみをたよって互いに矛盾した事を主張し合っている間は普遍的・・・ 寺田寅彦 「物理学と感覚」
・・・ 重量約一匁とか長さ約一寸といえば通例衡り方度り方の粗雑な事を意味する。丁度一匁とかキッチリ一寸など云えば大変に正確に聞えるが、精密とか粗雑とかいうのも結局は相対的の言葉である。人智の測り得る所いずれか粗雑ならざらんやである。丁度と云い・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・また書き方が如何にも整然としていて、粗雑な点が少しもない。」「優れた科学者のうちに、一つの問題に対する『最初の言葉』を云う人と、『最後の言葉』を述べる人とあったとしたら、レーリーは多分後者に属したかもしれない。」 しかし彼はまたかなり多・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
初めてあなたのお書きになるものを読んだのは、昔、読売新聞にあなたが「二人の小さいヴァガボンド」という小説を発表なさったときであり、その頃私は女学校の上級生で、きわめて粗雑ながら子供の心理の輪廓などを教わっていた時分のことで・・・ 宮本百合子 「含蓄ある歳月」
出典:青空文庫