・・・が、丹造は苦笑もせず、そして、だんだん訊くと、二、三、四、六、七の日が灸の日で、この日は無量寺の紋日だっせ、なんし、ここの灸と来たら……途端に想いだしたのは、当時丹造が住んでいた高津四番丁の飴屋の路地のはいり口に、ひっそりひとり二階借りして・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・ちょうど花見時で、おまけに日曜、祭日と紋日が続いて店を休むわけに行かず、てん手古舞いしながら二日商売をしたものの、蝶子はもう慾など出している気にもなれず、おまけに忙しいのと心配とで体が言うことを利かず、三日目はとうとう店を閉めた。その夜更く・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・今夜は紋日でなくッて、紛紜日とでも言うんだろう。あッちでも始まればこッちでも始まる。酉の市は明後日でござい。さア負けたア負けたア、大負けにまけたアまけたア」と、西宮は理も分らぬことを言い、わざとらしく高く笑うと、「本統に馬鹿にしていますね」・・・ 広津柳浪 「今戸心中」
出典:青空文庫