・・・随分細君には惚れていたのだが、その納骨を二年も放って置いて、いまだにそれを済ませないというズボラさである。 仕事は熱心だから、仕事だけはズボラでない筈だが、しかし書き上げてしまうと、綴じて送ったためしはない。読み返すこともしないらしく、・・・ 織田作之助 「鬼」
・・・ 遺骸は町屋の火葬場で火葬に付して、その翌朝T老教授とN教授と自分と三人で納骨に行った。炉から引き出された灰の中からはかない遺骨をてんでに拾いあつめては純白の陶器の壺に移した。並みはずれに大きな頭蓋骨の中にはまだ燃え切らない脳髄が漆黒な・・・ 寺田寅彦 「B教授の死」
・・・一際こんもりと生茂った林の間から寺の大きな屋根と納骨堂らしい二層の塔が聳えている。水のながれはやがて西東に走る一条の道路に出てここに再び橋がかけられている。道の両側には生垣をめぐらし倉庫をかまえた農家が立並び、堤には桟橋が掛けられ、小舟が幾・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・二十四日には一同京都に着し、紫野大徳寺中高桐院に御納骨いたし候。御生前において同寺清巌和尚に御約束有之候趣に候。 さて今年御用相片づき候えば、御当代に宿望言上いたし候に、已みがたき某が志を御聞届け遊ばされ候勤めているうちに、寛延三年に旨・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
出典:青空文庫