・・・本場のフランスでさえ、セザンヌの住んでいた村でセザンヌは理解されていなかったし、ゴッホの忠実な弟がいなかったら、そして理解のある弟の妻がいなかったら、私たちはゴッホを紙屑籠の中へ失ったであろう。この間新聞である女流の日本画家と洋画の女流画家・・・ 宮本百合子 「ディフォーメイションへの疑問」
・・・ 三つとも引き出しは抜きっぱなしになって、私共がふだん一寸拾ったボタンだの、ピン、小布などの屑同様のものを矢鱈につめこんであるのが、皆な引っぱり出されて、あかあるい日の中に紙屑籠を引っくり返した様になって居る。「まあどうしたんだ・・・ 宮本百合子 「盗難」
・・・相も変らず紙屑のようなエログロ出版が横行していること、文学者に対する税がお話にならない高率で、殆ど収入の八五パーセントもとられること、その上政府は文化財である故人の著作権に対して勝手な収入予想をして税をかけようとしていること、それらはただ文・・・ 宮本百合子 「討論に即しての感想」
・・・ 又夜になったら、あのつづきを書くために、私の紙屑籠が肥らされるのであろう。 宮本百合子 「曇天」
・・・たった三年の間に、十二万フランの負債をしょったバルザックは、遂に力つきて、美しい出版物を紙屑のような価で投げ売りにした。その時を計画的に準備し、待っていた同業者共は、労さず数万の利益を得たのである。 この恐るべき三年間を始りとして、バル・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・トロツキーのこの著作の翻訳がいかなる傾向の日本の現状によってかく大々的に扱われるのであるかということを、歴史的展望に立って鋭く洞察しなければ、新聞代まで高くなったほど紙の騰貴した折柄、悪意を満載した紙屑がしかく普及されることの矛盾が私たちに・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・襤褸と紙屑とは一プード二十哥。骨は一プード十哥か八哥で屑屋が買った。彼はふだんの日はこの仕事を学校がひけてからやった。 屑拾いよりもっと有利な仕事は材木置場から薄板をかっ払うことであった。一日に二三枚は窃んで来られた。いい板一枚に家持の・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・「お前は、俺があの汚い二階の紙屑の中に坐っている頃、毎夜こっそり来てくれたろう。」 妻は黙って頷いた。「俺はあの頃が一番面白かった。お前の明るいお下の頭が、あの梯子を登った暗い穴の所へ、ひょっこり花車のように現われるのさ。すると・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・そこで彼は、柱にもたれながら紙屑を足で押し除け、うすぼんやりと自殺の光景を考えるのだ。外では子供達が垣を揺すって動物園の真似をしていた。狭い路を按摩が呼びながら歩いて来る。子供達は按摩の後からぞろぞろついてまた按摩の真似をし始める。彼は横に・・・ 横光利一 「街の底」
出典:青空文庫