・・・レモンエロウの絵具をチューブから搾り出して固めたようなあの単純な色も、それからあの丈の詰まった紡錘形の恰好も。――結局私はそれを一つだけ買うことにした。それからの私はどこへどう歩いたのだろう。私は長い間街を歩いていた。始終私の心を圧えつけて・・・ 梶井基次郎 「檸檬」
・・・その当時まだしらみの実物を手にしたことはなかったはずであるが、しかしその絵にはこの虫がだいたい紡錘形をした体躯の両側に数本の足の並んだものとして、写実的にはとにかく、少なくも概念的に正しく描かれているのである。 いよいよ東京を立って横浜・・・ 寺田寅彦 「蒸発皿」
・・・はねるたびにあの紡錘形の袋はプロペラーのように空中に輪をかいて回転するだけであった。悪くすると小枝を折り若芽を傷つけるばかりである。今度は小さな鋏を出して来て竿の先に縛りつけた。それは数年前に流行した十幾とおりの使い方のあるという西洋鋏であ・・・ 寺田寅彦 「簔虫と蜘蛛」
出典:青空文庫