・・・強い紫外線と烈しい低温とに鍛練された高山植物にはどれを見ても小気味のよい緊張の姿がある。これに比べると低地の草木にはどこかだらしのない倦怠の顔付が見えるようである。 帰りに、峰の茶屋で車を下りて眼の上の火山を見上げた。代赭色を帯びた円い・・・ 寺田寅彦 「浅間山麓より」
・・・もっとも普通の世間の人の口にする科学という語の包括する漠然とした概念の中には、たとえばラジオとか飛行機とか紫外線療法とかいうようなものがある。しかしこれらは科学の産み出した生産物であって学そのものとは区別さるべきものであろう。また通俗科学雑・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・その後二十年たってドイツのエナでツァイスの工場を見学したとき、紫外線顕微鏡でこの同じ珪藻の見事な像を蛍光板の上に示されたとき、この幼い記憶が突然甦って来るのを感じたのであった。 十二、三歳の頃ひどくからだが弱くて両親に心配をかけた。その・・・ 寺田寅彦 「追憶の医師達」
・・・の時代に新しい型式の生物が多数に発生したであろうということも想像できるのであるが、それと同じように文化的要素の進化の道程における突然変異もまたその時代におけるいろいろな外的条件に支配されるものであって紫外線X線の放射、電流の刺激、特殊化学成・・・ 寺田寅彦 「俳句の型式とその進化」
・・・これは赤外線、紫外線を吸収して人工光線の下で仕事をするのに大変疲れないのだそうです。大奮発です。でも眼玉ですものね。そう云えば、私のこれを書いているテーブルの上には、馬の首のついた中学生じみた文鎮のわきに明視スタンドが立っているのです。その・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 日向では婆さん連が並んで、黙って、ロンドンの紫外線少い夏を吸い込もうとしている。日向だと空気中に何だか匂いがした。 円い池があった。遠浅で下は砂だ。子供等が膝の上まで水に浸って遊んでいる。 山の手の公園ケンシントン・ガーデンに・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫