・・・その原因は他なし、この改進者流の人々が、おのおのその地位におりて心情の偏重を制すること能わず、些々たる地位の利害に眼をおおわれて事物の判断を誤り、現在の得失に終身の力を用いて、永遠重大の喜憂をかえりみざるによりて然るのみ。 内閣にしばし・・・ 福沢諭吉 「学者安心論」
・・・少年は終身の少年に非ず、三、五年をすぐれば屈強の大人たるをいかんせん。政治経済は有用の学なり、大人にしてこれを知らざるは不都合ならん。今一歩を譲り、人生は徳義を第一として、これに兼ぬるに物理の知識をもってすれば、もって社会の良民たるに恥じず・・・ 福沢諭吉 「経世の学、また講究すべし」
・・・ことに智育有形の実学を離れて、道徳無形の精神にいたりては、ひとたびその体を成して終身変化する能わざるもの多し。けだし人生の教育は生れて家風に教えられ、少しく長じて学校に教えられ、始めて心の体を成すは二十歳前後にあるものの如し。この二十年の間・・・ 福沢諭吉 「政事と教育と分離すべし」
・・・金玉もただならざる貴重の身にして自らこれを汚し、一点の汚穢は終身の弱点となり、もはや諸々の私徳に注意するの穎敏を失い、あたかも精神の痲痺を催してまた私権を衛るの気力もなく、漫然世と推移りて、道理上よりいえば人事の末とも名づくべき政事政談に熱・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・芭蕉はこれをもってみずから得たりとし、終身複雑なる句を作らず。門人は必ずしも芭蕉の簡単を学ばざりしも、複雑の極点に達するにはなお遠かりき。 芭蕉は「発句は頭よりすらすらと言い下し来たるを上品とす」と言い、門人洒堂に教えて「発句は汝がごと・・・ 正岡子規 「俳人蕪村」
・・・いや、それよりもこんなことになるのはどこの国の政治家でもすぐわかる、これはいかんと云うわけでお気の毒ながら諸君をみんな終身懲役にしちまいます。まさか死刑にはなりますまいが終身懲役だってそんないいもんじゃありませんよ。どうです。今のうち懺悔し・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・そういう仕事がすむと教区学校以来二十年の経験をかさねた小学校教師として、コンムーナの文化向上を終身の職務としてやっている。 はじめはたった十六ルーブリの月給で、それから十九ルーブリに、一九二七年にはコンムーナの生産経済の成長とともにやっ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ るんはこれから文化五年七月まで、三十一年間黒田家に勤めていて、治之、治高、斉隆、斉清の四代の奥方に仕え、表使格に進められ、隠居して終身二人扶持を貰うことになった。この間るんは給料の中から松泉寺へ金を納めて、美濃部家の墓に香華を絶やさな・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
出典:青空文庫