・・・そして底の縁に小孔があって、それに細い組紐を通してある白い小玉盃を取出して自ら楽しげに一盃を仰いだ。そこは江戸川の西の土堤へ上り端のところであった。堤の桜わずか二三株ほど眼界に入っていた。 土耳古帽は堤畔の草に腰を下して休んだ。二合余も・・・ 幸田露伴 「野道」
・・・由子は一種の愛惜を面に表して、藤紫の組紐をしごいたりしたが、やがて丁寧にそれを畳んで、お清さんの前へ置いた。「あなた大働きだから、勲章にこれさし上げます」「おやまあ」 お清さんは、笑いながらそれを戴いた。「恐れ入ります。じゃ・・・ 宮本百合子 「毛の指環」
・・・第三の女、第一の女と同じ色に縦に五本ほど太い組紐で飾りのついたのを着て頭巾は後の方のパッと開いたのをつける。非番の老近侍は茶の上着を着て白と黒の縞のキッチリのズボン白い飾りのついた短靴をはいて飾りのついた剣をつるす。ふちのない上着と・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
出典:青空文庫