・・・そのひびの薄れるように、そのまわりに結締組織のできるように修養すべきだ。傷をいやすレーテの川、忘却というものも自然のたまものだ。絶対的にのみ考えなくてもいい。童貞の青年といえども、すでに自慰を知らぬものはなく、肉体的想像力を持たぬものもあり・・・ 倉田百三 「学生と生活」
・・・花から取った香水や、肌色のスメツ白粉や、小指のさきほどの大きさが六ルーブルに価する紅は、集団農場の組織や、労働者の学校や、突撃隊の活動などとは、およそ相反するものだ。それをわざわざ持ちこんで行くのは意味がなければならなかった。社会主義的社会・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・ 当時所謂言文一致体の文章と云うものは専ら山田美妙君の努力によって支えられて居たような勢で有りましたが、其の文章の組織や色彩が余り異様であったために、そして又言語の実際には却て遠かって居たような傾もあったために、理知の判断からは言文一致・・・ 幸田露伴 「言語体の文章と浮雲」
・・・人間の血肉の新陳代謝がまったくやすんで、形体・組織が分解しさるのみではないか。死の事大ということは、太古より知恵ある人がたてた一種のカカシである。地獄・極楽の蓑笠つけて、愛着・妄執の弓矢をはなさぬ姿は、はなはだものものしげである。漫然と遠く・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
「モップル」が、「班」組織によって、地域別に工場の中に直接に根を下し、大衆的基礎の上にその拡大強化をはかっている。 ××地区の第××班では、その班会を開くたびに、一人二人とメンバーが殖えて行った。新しいメンバーがはいって・・・ 小林多喜二 「疵」
・・・ここは会社と言っても、営業部、銀行部、それぞれあって、先ず官省のような大組織。外国文書の飜訳、それが彼の担当する日々の勤務であった。足を洗おう、早く――この思想は近頃になって殊に烈しく彼の胸中を往来する。その為に深夜までも思い耽る、朝も遅く・・・ 島崎藤村 「並木」
・・・二日の午後三時に政府は臨時震災救護事務局というものを組織し、さしあたり九百五十万円の救護資金を支出して、り災者へ食糧、飲料水をくばり、傷病者の手あて以下、交通、通信、衛生、防備、警備の手くばりをつけました。同日午後五時に、山本伯の内閣が出来・・・ 鈴木三重吉 「大震火災記」
・・・七月一日、病院の組織がかわり職員も全部交代するとかで、患者もみんな追い出されるような始末であった。私は兄貴と、それから兄貴の知人である北芳四郎という洋服屋と二人で相談してきめて呉れた、千葉県船橋の土地へ移された。終日籐椅子に寝そべり、朝夕軽・・・ 太宰治 「川端康成へ」
・・・ 歴史の時間の一部を割いて、実際の国家組織に関する事項、社会学や法律なども授けてはどうかという問に対してはむしろ不賛成だと答えている。彼自身個人としては公生活の組織に関してかなりな興味をもっているが、学校で政治的素養を作る事は面白くない・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・旧組織が崩れ出したら案外速にばたばたいってしまうものだ。地下に水が廻る時日が長い。人知れず働く犠牲の数が入る。犠牲、実に多くの犠牲を要する。日露の握手を来すために幾万の血が流れたか。彼らは犠牲である。しかしながら犠牲の種類も一ではない。自ら・・・ 徳冨蘆花 「謀叛論(草稿)」
出典:青空文庫