・・・驚いて猿臂を伸し、親仁は仰向いて鼻筋に皺を寄せつつ、首尾よく肩のあたりへ押廻して、手を潜らし、掻い込んで、ずぶずぶと流を切って引上げると、びっしょり舷へ胸をのせて、俯向けになったのは、形も崩れぬ美しい結綿の島田髷。身を投げて程も無いか、花が・・・ 泉鏡花 「葛飾砂子」
・・・両側をきれいな細流が走って、背戸、籬の日向に、若木の藤が、結綿の切をうつむけたように優しく咲き、屋根に蔭つくる樹の下に、山吹が浅く水に笑う……家ごとに申合せたようである。 記者がうっかり見愡れた時、主人が片膝を引いて、前へ屈んで、「辰さ・・・ 泉鏡花 「半島一奇抄」
・・・年は十九か、二十にはまだなるまいと思われるが、それにしても思いきってはでな下町作りで、頭は結綿にモール細工の前まえざし、羽織はなしで友禅の腹合せ、着物は滝縞の糸織らしい。「ねえ金さん、それならお気に入るでしょう?」とお光は笑いながら言っ・・・ 小栗風葉 「深川女房」
出典:青空文庫