・・・米価はひどい騰貴で商人は肥え、庶人は困窮し、しかも日光の陽明門が気魄の欠けた巧緻さで建造され、絵画でも探幽、山楽、光悦、宗達等の色彩絢爛なものがよろこばれている。よるべない下級武士の二六時にのしかかって来る生活のそういう矛盾が、宗房のような・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
・・・それは、バルザックが一八三〇年代からフランス文学に咲き乱れていた絢爛たるロマンチシズム文学の只中にあって、全く一人の例外者、ユーゴオなどに云わせると、文体もきまらない才能のない野人として、寧ろ除け者のようなとり扱いを受けていたことである。・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・を附し、この四六判二百九十余頁に亙るトロツキーの「絢爛たる文彩、迫撃砲の如き論調、山積せる材料、苛辣なる皮肉」が結局「どんなに善意に解釈しても、ソヴィエットの社会主義的進化の実状に対するトロツキーの思想と思索方法とが全く動脈硬化的な抽象論を・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・私が源氏物語を読んだのは、与謝野さんの訳でではあったが、あの絢爛な王朝文学の、一種違った世界の物語りや、優に艷めかしい插画などが、子供の頭に余程深く印象されたものらしい。そしてそれに動かされて書いたのがこの「錦木」だったのである。その「錦木・・・ 宮本百合子 「昔の思い出」
・・・ 藤原氏一族の貴女の生活は、そのように不安定な土台の上に絢爛と咲いていたが、当時の日本全国、或は京都の一般の庶民の女の生活というものはどんなであったのだろうか。第一、絵巻を見ても分るように、庶民の女は髪を藁わらしべや紙で結え、染色を使わ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・やがて乳房の山は電光の照明に応じて空間に絢爛な線を引き垂れ、重々しい重量を示しながら崩れた砲塔のように影像を蓄えてのめり出した。 彼は夜になると家を出た。掃溜のような窪んだ表の街も夜になると祭りのように輝いた。その低い屋根の下には露店が・・・ 横光利一 「街の底」
出典:青空文庫