・・・ もしその丘をつくる黒土をたずねるならば、それは緑青か瑠璃であったにちがいありません。二人はあきれてぼんやりと光の雨に打たれて立ちました。 はちすずめがたびたび宝石に打たれて落ちそうになりながら、やはりせわしくせわしく飛びめぐって、・・・ 宮沢賢治 「虹の絵具皿」
・・・ 後年光琳の流れのなかで定式のようになった松の翠の笠のような形に重ねられる手法、画面の中央を悠々とうねり流れている厚い白い水の曲折、鮮やかな緑青で、全く様式化されながらどっしりと、とどこおるもののない量感で据えられた山の姿、それらは、宗・・・ 宮本百合子 「あられ笹」
・・・沼だ、そう思った時、コンクリート道がひろく一うねりして、眺望がひらけ、左手に気味わるく青いその沼と、そのふちの柵、沼になるまでの斜面に古い十字架がどっさりあって、そのいくつかが緑青色の水の中へこけかかっているのなどが見える。あとで訊くと、ザ・・・ 宮本百合子 「石油の都バクーへ」
硝子戸に不思議に縁がある。この間まで借りていた二階の部屋は東が二間、四枚の素通し硝子であった。朝日が早くさし込む。空が雑木の梢を泛べて広く見渡せ、枝々の間から遙に美しく緑青をふいた護国寺の大屋根が見えた。温室に住んでいるよ・・・ 宮本百合子 「春」
出典:青空文庫