・・・の諸家の序やら跋やら、または編者の筆になるところの年譜、逸話集、写真説明の文など、諸処方々から少しずつ無断盗用して、あやうく、纏めた故葛原勾当の極めて大ざっぱな略伝である。その人と為りに就いての、私一個人の偽らぬ感想は、わざと避けた。日記の・・・ 太宰治 「盲人独笑」
・・・なんだかこれでは自分がベデカの編者それ自身になってその校正でもしているような気がし、そしてその窓が不思議なこだわりの網を私のあたまの上に投げかけるように思われて来た。室に付随した歴史や故実などはベデカによらなければ全くわからないが、窓のなが・・・ 寺田寅彦 「案内者」
・・・ 明治一六年二月編者識と記すべき法なるを、ある時、林大学頭より出したる受取書に、楷書をもって尋常に米と記しければ、勘定所の俗吏輩、いかでこれを許すべきや、成規に背くとて却下したるに、林家においてもこれに服せず、同家の用人と勘定所の・・・ 福沢諭吉 「学問の独立」
・・・ 明治一五年一一月編者識 徳育如何 青酸は毒のもっとも劇しきものにして、舌に触れば、即時に斃る。その間に時なし。モルヒネ、砒石は少しく寛にして、死にいたるまで少しく時間あり。大黄の下剤の如きは、二、三時間以上を経・・・ 福沢諭吉 「徳育如何」
・・・ ヴォルフがいつも自分の撮そうとする対象を愛しているということは、その作品集の日本の編者も絶讚していることだけれども、芸術家が対象を愛すというのはどういうことを意味するのかと実に面白く考えられた。ヴォルフの美が肯定され、彼の対象への愛が・・・ 宮本百合子 「ヴォルフの世界」
・・・一巻の本文、特に主人公たちの名前を、編者は親切に中国の発音に準じてフリガナをつけていてくれる。しかし、作者たちの名に、それがついていない。日本の読者の悲しみは、愛する落華生を、忘れられない葉紹鈞を、どう発音したら、中国及び外国の人々に、その・・・ 宮本百合子 「春桃」
・・・この辞典において、リアリズムに連関して現れている芸術家はゾラ、フローベル、モネ、セザンヌ等であり、しかも編者は明瞭な言葉でリアリズムの階級性にも言及している。「我々マルクス主義者の云うリアリズムをはき違えて、あたかもそれが十九世紀後半の写実・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
一 ファウストを訳した時の苦心を話すことを、東亜之光の編者に勧められた。然るに私は余り苦心していない。少くも話の種にする程、苦心していない。こう云うのがえらがるのでないことは勿論である。また過誤のあった時、分疏をするために予め地・・・ 森鴎外 「不苦心談」
出典:青空文庫