・・・袋の両端から少しずつ虫を傷つけないように注意しながら切って行った。袋の繊維はなかなか強靱であるので鈍い鋏の刃はしばしば切り損じて上すべりをした。やっと取り出した虫はかなり大きなものであった、紫黒色の肌がはち切れそうに肥っていて、大きな貪欲そ・・・ 寺田寅彦 「簔虫と蜘蛛」
・・・この響き、この群集の中に二年住んでいたら吾が神経の繊維もついには鍋の中の麩海苔のごとくべとべとになるだろうとマクス・ノルダウの退化論を今さらのごとく大真理と思う折さえあった。 しかも余は他の日本人のごとく紹介状を持って世話になりに行く宛・・・ 夏目漱石 「倫敦塔」
・・・いまはすっかり青ぞらに変ったその天頂から四方の青白い天末までいちめんはられたインドラのスペクトル製の網、その繊維は蜘蛛のより細く、その組織は菌糸より緻密に、透明清澄で黄金でまた青く幾億互に交錯し光って顫えて燃えました。「ごらん、そら、風・・・ 宮沢賢治 「インドラの網」
・・・日本においては、繊維産業に働く女の子の生活と意識の水準がどの辺にあるかということが、必ずみられなければなりません。吉田首相がどんなに綺麗な白足袋をはいているかということではなくて、続々と失業させられている労働者の食べられるもの、着ていられる・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・昭和四年においてさえ男工一〇〇に対して女工の数は一一五・七を示し、大部分が繊維工業に分布されている。これは、日本が近代工業国として持っている歴史的な独特性である。故細井和喜蔵氏によって著わされた「女工哀史」はそういう特性をもった日本の若い無・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・紡織は、イギリスで蒸気の力で紡績機械を運転することを発見して産業革命があって後、繊維産業というものが世界中ですっかり変ってしまった。 今日の紡績工場は耳が聾になるほどうるさい。何千という錘が絶え間なく廻っている。そこに十四五から、七八く・・・ 宮本百合子 「衣服と婦人の生活」
・・・例えば女の人口のうち、あれだけ多くを占める繊維工業の若い十四五から二十歳までの勤労女性の生活はどうでしょう。倉敷には有名な大原コレクションがありますが、この倉敷で文化講演会があっても、総同盟あたりが締めつけにしている工場では、工場というとこ・・・ 宮本百合子 「社会と人間の成長」
・・・社会がその発展の頂上に近づいた十九世紀になって、ルネッサンス以後十八世紀になってはっきり方向を定めた人間解放の問題が具体化して来て、特にイギリスではどこよりも早く蒸気機関の利用による産業革命が行われ、繊維産業が非常に発達した。イギリスの婦人・・・ 宮本百合子 「女性の歴史」
・・・があるとすると、その地区に住んでいる繊維の労働者もこれを利用することが出来る。ただ、現在の五ヵ年計画による社会主義都市の建設は、大きな工場を中心として「クラブ」や食堂、病院、学校などを建設して行くから自然産別に於て統一される。 労働者ク・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの「労働者クラブ」」
・・・松岡駒吉氏たちは、宝塚会談で繊維労働者の民主的な生活への見とおしを売りわたして、今日北白川宮邸に住む身となっている。日本経済復興をだしに武器製造から繊維の儲けに移った業者と腹を合わせた社会党の政府が、この課題を人民の目の前でどうとりさばくか・・・ 宮本百合子 「その檻をひらけ」
出典:青空文庫