・・・ 海をへだてたアメリカでは、丁度時を同じくして全米繊維の大罷業が七十二万人の労働者をふくんではじまっている。 三日の夕方、東交代表河野争議部長が、下唇を突出し気味に背中を堅くして椅子にかけている山下局長に向って整理案撤回要求書を差し・・・ 宮本百合子 「電車の見えない電車通り」
・・・の抒情的作風からはやい歩調で成長してきて、取材の範囲をひろめながら日本の繊維産業とそこに使役されている婦人の労働についてはっきり労働階級の立場から書きはじめている。彼女の筆致はまだ粗く、人間像の内面へまで深く迫った形象化に不足する場合もある・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・今日日本で婦人労働者の数は全労働人員の四割七分を占めているが、その大部分は繊維工で、教育程度は平均僅かに小学四年です。婦人の高等教育機関もあるが、それを受け得る者は極く少数のブルジョアに過ぎない。尨大な繊維女工の群はブルジョア日本の特質をな・・・ 宮本百合子 「婦人作家の「不振」とその社会的原因」
・・・日本では婦人労働者がその八割六分を占めている繊維工業者らは、実物供与、寄宿舎、光熱、被服、賄等を会社の手に独占して更にそこから儲けている。而も一九二五年、六百二十軒の工場で、宿舎に雨戸のあるのが二百四十九軒。雨戸のないのが三百七十一軒という・・・ 宮本百合子 「プロレタリア婦人作家と文化活動の問題」
・・・いわゆる労働問題をおこしたり、日本の労働者の賃銀は世界水準から半奴隷的賃銀とされていること、婦人の労働がさらにその半分の賃銀しか得ていないからこそ、明治以来日本の繊維産業は世界市場で資本家のために利潤をあげてきているというような事実をあから・・・ 宮本百合子 「平和への荷役」
・・・それとともに、工業はおくれていて、資本主義国家となるためには、辛うじて、繊維軽工業にたよるしかなかった。天然資源にも乏しい。明治政府の本質というものは封建的な地主と軽工業に基礎を置いた非常に薄弱な資本家とによって組立てられていたものであって・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
出典:青空文庫