・・・この世界には私と云うものがありまして、あなた方と云うものがありまして、そうして広い空間の中におりまして、この空間の中で御互に芝居をしまして、この芝居が時間の経過で推移して、この推移が因果の法則で纏められている。と云うのでしょう。そこでそれに・・・ 夏目漱石 「文芸の哲学的基礎」
・・・ いわゆる文明社界に住む人の特色は何だと纏めて云って御覧なさい。私にはこう見える。いわゆる文明社会に住む人は誰を捉まえてもたいてい同じである。教育の程度、知識の範囲、その他いろいろの資格において、ほぼ似通っている。だから誰かれの差別はな・・・ 夏目漱石 「文壇の趨勢」
・・・それで今朝少し考を纏めてみましたが、準備がどうも不足のようです。とてもご満足の行くようなお話はできかねますから、そのつもりでご辛防を願います。 この会はいつごろから始まって今日まで続いているのか存じませんが、そのつどあなたがたがよその人・・・ 夏目漱石 「私の個人主義」
・・・今日の文明流に従って維新後に幸に身を全うすることを得たるも、自から省みて我立国の為めに至大至重なる上流士人の気風を害したるの罪を引き、維新前後の吾身の挙動は一時の権道なり、権りに和議を講じて円滑に事を纏めたるは、ただその時の兵禍を恐れて人民・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・学校から纏めて注文するというので僕は苹果を二本と葡萄を一本頼んでおいた。四月九日〔以下空白〕一千九百廿五年五月五日 晴まだ朝の風は冷たいけれども学校へ上り口の公園の桜は咲いた。けれどもぼくは桜の花はあんまり好・・・ 宮沢賢治 「或る農学生の日誌」
・・・重要な作品のテーマであれば、それにふさわしい表現の手段が彼としては無くてはならず、しかも、西欧の文学に通暁していたこの作者が、題材として手柔らかな、纏めやすく拵えやすい過去の情景へ向ってそれを求めたということの精神の機微にも目をひかれる。西・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・このひとの随筆を折々よみ、纏めて杏奴さんの文章をも読み、私はこれらの若い時代の人々が文章のスタイルに於て、父をうけついでいるのみならず、各自の生活の輪が、何かの意味で大きかった父という者の描きのこした輪廓の内にとどめられていることを痛感した・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・又は、後半の狂言風な可笑しみで纏め、始めの自責する辺などはごくさらりと、折角、一夜を許し、今宵の月に語り明かそうと思えば、いかなこと、この小町ほどの女もたばかられたか、とあっさり砕けても、或る面白味があっただろう。 行き届いて几帳が立て・・・ 宮本百合子 「気むずかしやの見物」
・・・と合わせて、私は永年の友達であるこの著者の人柄や心持ちなどの真髄を、あらためて印象のうちに纏められたような心持がした。 いきなり人について云いはじめるのは妙なようだけれども、先頃『現代文学論』の評として書かれた或る文章のなかに、窪川とい・・・ 宮本百合子 「作家に語りかける言葉」
・・・に於て作者は、戦争から一つのテーマを捉え来って、それを小説に纏めるという、作者の日々の条件からみれば実に驚くべき文学的努力を試みているのである。そして小説の様式も従来の小説というものの仕来りに準じている。読者は、作者の生きている境遇の烈しさ・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
出典:青空文庫