・・・おばはんとうとう出て行きよったが、出て行きしな、風呂敷包持って行ったンはええけど、里子の俺は置いてきぼりや。おかげで、乳は飲めん、お腹は空いてくる、お襁褓はかえてくれん、放ったらかしや。蹴ったくそわるいさかい、亭主の顔みイみイ、おっさんどな・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・本牧に連れていって勝治に置いてきぼりを食らわせたのも、こいつだ。勝治がぐっすり眠っている間に、有原はさっさとひとりで帰ってしまったのである。勝治は翌る日、勘定の支払いに非常な苦心をした。おまけにその一夜のために、始末のわるい病気にまでかかっ・・・ 太宰治 「花火」
・・・火がないので、真黒にむさくるしいストーブを見ながら、頬杖をついて、私はもう随分さっきから置いてきぼりにされた様な様子をして居る。 この頃漸々、学校の休になって、長い間かかって居たものを二三日前に書きあげたけれ共、それにつける丁度いい題に・・・ 宮本百合子 「草の根元」
・・・ 鶏はいつも牝鳥をかばってやって、人がいたずらをするとみの毛をさかだてておっかけるが鴨は置いてきぼりにして夢中になって自分からにげ出してしまう。 梨の果はその育ち工合はなかなか貴とげなきっと人にたっとばれる実になりそうに思われる・・・ 宮本百合子 「芽生」
出典:青空文庫