・・・頭をおさえて庭を見ると、笠松の高い幹にはまっかなのうぜんの花が熱そうに咲いている。よい時分に先生が出て来て「どうだ、むつかしいか、ドレ」といって自分の前へすわる。ラシャ切れを丸めた石盤ふきですみからすみまで一度ふいてそろそろ丁寧・・・ 寺田寅彦 「花物語」
・・・ 田螺のしゃっぽは、 羅紗の上等、ゴゴンゴーゴー」 本線のシグナルはせっかちでしたから、シグナレスの返事のないのに、まるであわててしまいました。「シグナレスさん、あなたはお返事をしてくださらないんですか。ああ僕はもう・・・ 宮沢賢治 「シグナルとシグナレス」
・・・ またわたくしは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのきものが、いちばんすばらしいびろうどや羅紗や、宝石いりのきものに、かわっているのをたびたび見ました。 わたくしは、そういうきれいなたべものやきものをすきです。 これらのわたくし・・・ 宮沢賢治 「『注文の多い料理店』序」
・・・燕尾服もあれば厚い粗羅紗を着た農夫もあり、綬をかけた人もあれば、スラッと瘠せた若い軍医もありました。すべてこれらは、私たちの兄弟でありましたから、もう私たちは国と階級、職業とその名とをとわず、ただ一つの大きなビジテリアンの同朋として、「お早・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
・・・その服を着て、海老茶色のラシャで底も白フェルトのクツをはいた二十九歳の母が、柔かい鍔びろ経木帽に水色カンレイシャの飾りのついたのをかぶって俥にのって出かけたとき、三人の子供たちと家のものとは、美しさを驚歎してその洋服姿を見送った。若い母は、・・・ 宮本百合子 「菊人形」
・・・消費組合売店ではラシャの布地まで扱っている。托児所、学校、革命の家、病院は建築中だ。案内の若い、労働通信員をしている技師と工場内の花の咲いたひろい通路を歩いていたら、こっちでは電熱炉で鉄を溶かしている鍛冶部の向い側のどこかで、嬉しそうなピア・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェト同盟の文化的飛躍」
・・・ 当時のジイドの風貌は黒羅紗の大きな帽子をかぶり、痩せて清らかで、同時に重々しく気取り、オスカア・ワイルドが「僕は君の唇が気に入らないんだ。一度も嘘をついたことのない奴の唇みたいに真直じゃないか」と笑いこけた、その唇から特異な言葉をぽつ・・・ 宮本百合子 「ジイドとそのソヴェト旅行記」
・・・ガーエフは、緑色羅紗の上でおとなしく小さな白い球を転して一生を終った。今ロシア人は、ひろいグラウンドへ一つの大きい球をかっ飛ばし、それを追っかけ体ごところがり廻る。ロシアの新しい運動、蹴球。一名、動的生活。球の皮と皮との継ぎ目には“К”とス・・・ 宮本百合子 「シナーニ書店のベンチ」
・・・ 防寒のために荒羅紗を入れ、黒い油布を張った上から鋲をうちつけた、あたりまえのロシアの戸だ。そこが「学者の家」の常用口だ。一番下に「風呂」という札が出ている。風呂はどこになるのか誰のためにその札が出してあるのか分らない。 中庭がある・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
・・・むきだしの木の床に粗末な赤ラシャ張りの椅子が三四脚ある。バネがこわれた長椅子がある。机は相当大きいが、ひどいものだ。鉄寝台の、すっかりバネのゆるんで下へたれたのが二つ、たれ幕のうしろに並んでいる。ここは窓が二つだ。が入口はない。どうしても、・・・ 宮本百合子 「スモーリヌイに翻る赤旗」
出典:青空文庫