・・・リップスの『美学』を読むものはいかに彼の美の感覚が善の感覚と融合しているかを見て思い半ばにすぎるであろう。しかし生を全体として把握しようとするわれわれの目から見るとき、かくの如きは当然のことである。『モダンペーンター』の著者ラスキンはまた熱・・・ 倉田百三 「学生と教養」
・・・少年は、嫂に怜悧に甘えて、むりやりシャツの襟を大きくしてもらって、嫂が笑うと本気に怒り、少年の美学が誰にも解せられぬことを涙が出るほど口惜しく思うのでした。「瀟洒、典雅。」少年の美学の一切は、それに尽きていました。いやいや、生きることのすべ・・・ 太宰治 「おしゃれ童子」
・・・大隅君は大学の美学科を卒業したのである。美人に対しても鑑賞眼がきびしいのである。「写真を、北京へ送ってやったのです。すると、大隅さんから、是非、という御返事がまいりました。」山田君は、内ポケットをさぐって、その大隅君からの返事を取出し、・・・ 太宰治 「佳日」
・・・私には美学が無いのです。生活の感傷だけです。私は、これから、いよいよ野暮な作品ばかり書いて行くような気がします。なんだか、深く絶望したものがあります。 あなたからいただいたお手紙は、生涯大事に、離さずに、しまって置きます。 たくさん・・・ 太宰治 「風の便り」
・・・それを思えば、芸術がどうのこうのと自分の美学を展開するどころでは無い。原稿に添えて在るお手紙には、明日知れぬいのちゆえ、どうか、よろしくたのみます、と書いているのだ。私は、その小説を、失礼だが、少し細工する。そうして妻に言いつけて、そのくし・・・ 太宰治 「鴎」
・・・そうして色気も何もなく、いや、色気におびえて発狂気味、とでも言おうか、男よりも乱暴なくらいの態度で私に向って話しかけ、また女同士で、哲学だか文学だか美学だか、なんの事やら、まるでちっともなっていない、阿呆くさい限りの議論をたたかわすのである・・・ 太宰治 「父」
・・・ベーロ・ボラージュ、映画美学と映画社会学。上田進訳編、映画監督学とモンタージュ論。レオン・ムーシナック、ソヴィエト・ロシアの映画(飯島正。エリック・エリオット、映画技術と芸術(岸松雄。佐々木能理男訳編、発声映画監督と脚本・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・これはただ牛肉の後に沢庵といいうような意味のものではなく、もっとずっと深い内面的の理由による事と思う。美学者や心理学者はこれに対してどういう見解を下しているか知らないが、とにかく東洋画殊に南画というものの芸術的の要素の中にはこれと同じような・・・ 寺田寅彦 「津田青楓君の画と南画の芸術的価値」
・・・ このような差違の生じた原因の進化論的考究や、両者の美学的価値の比較をここで並べようとは思わない。そういう六かしい問題は別として、現在日本の画界における両つの分派の作品を対照した時に感ずるあるデリケートな差別の裏面には、両派の画家の本来・・・ 寺田寅彦 「帝展を見ざるの記」
・・・そうでなかったらユーモアーというものが美学の対象などになりようはない。しかしそのような問題はここに云うべき範囲外である。ただ落語や川柳にも前述のごとき意味の科学的要素を中心として発展し得べき領域のある事をこの機会に注意しておきたいと思うので・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
出典:青空文庫