・・・ その晩千世子は両親の容貌の美醜によって子供の性質に幾分かに変化を与えられると云う事が必ず有りそうで仕様がないと話した。「ほんとにきっとあるんだろうと思う。 あるらしい気がする。 そんな事を云って眠りたがる母親を無理・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
・・・もっと動物的に、或は愚劣に、或は恐ろしく、美醜をかねそなえた具体的な人間の女性として把握している。 水っぽいサロン的常識の埒を越えないツルゲーネフのそういう考え方にトルストイが癇癪を爆発させたであろう様子を想像すると、思わず破顔さえ覚え・・・ 宮本百合子 「ツルゲーネフの生きかた」
・・・ 一九四〇年のオリンピックが東京へ来るときまった時、新聞で首都の美醜を写真にして対比したことがあった。醜と目された部分を四年の間に何とかせよという意味がふくまれていた。ところが、醜として撮影された部分が人生の情景として、感情をもって見れ・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
・・・のこるような大きい事柄では頑固な程母の期待とは違うように動かなければならなかった娘である私が、長い歴史の目で見れば、女性としての母の生涯の一番正統な根気づよい発展者であろうと希っているものであり、また美醜の力強く錯綜した人間らしい母の生活の・・・ 宮本百合子 「母」
・・・ある人は女の肉体を鑑賞物として美醜こもごもうがって書いているであろうし、ある人は恋愛的な場面で発露する女というものを書いているのですが、男と女との関係全体をひっくるめて今日の社会的な生活そのものをもっと合理的な、男にとっても自分たち女にとっ・・・ 宮本百合子 「不満と希望」
・・・君主と高ぶり奴隷と卑しめらるるは習慣の覊絆に縛されて一つは薔薇の前に据えられ他は荊棘の中に棄てられたにほかならぬ、吾人相互の尊卑はただ内的生命の美醜に定まる。心霊の大なるものが英傑である。幾千万の心霊を清きに救いその霊の住み家たる肉体を汚れ・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫