・・・とかいう言葉は今でも折々繰返されてるが、斯ういう軽侮語を口にするものは、今の文学を研究して而して後鑑賞するに足らざるが故に軽侮するのではなくて、多くは伝来の習俗に俘われて小説戯曲其物を頭から軽く見ているからで、今の文学なり作家なりを理解して・・・ 内田魯庵 「二十五年間の文人の社会的地位の進歩」
・・・の「第五回トゥーレ号探検記」にもこれに似た唄合戦の記事があるところを見ると、これに類似の風俗はエスキモー種族の間にかなり広く行われているのではないかと思う。我邦の昔の「歌垣」の習俗の真相は伝わっていないが、もしかすると、これと一縷の縁を曳い・・・ 寺田寅彦 「映画雑感6[#「6」はローマ数字、1-13-26]」
・・・こんな習俗ももとは何かしら人間の本能的生活に密接な関係のある年中行事から起ったものであろうと思うが、形式だけが生残って内容の原始的人間生活の匂いは永久に消えてしまい忘れられてしまったのであろう。「早苗とる頃」で想い出すのは子供の頃に見た・・・ 寺田寅彦 「五月の唯物観」
・・・あるいは葬式や嫁入りの門先に皿鉢を砕く、あの習俗がこんな妙な形に歪曲されて出現したのかもしれない。 島へ渡ったのは、たぶん大阪高知間飛行の話の時に思い浮かべた瀬戸内海の島が素因をなしているかと思われる。 前日の昼食時にA君が、自分の・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・してあの板塀や下見などに塗る渋のような臭気を部屋じゅうに発散しながら、こうした涅歯術を行なっている女の姿は決して美しいものではなかったが、それにもかかわらず、そういう、今日ではもう見られない昔の家庭の習俗の思い出には言い知れぬなつかしさが付・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
・・・ 新思想の本元の西洋へ行って見ると、かえって日本人の目にばかばかしく見えるような大昔の習俗や行事がそのままに行なわれているのはむしろ不思議である。 これはどちらがいいか、議論をするとわからなくなるにきまっている。 ただこのごろの・・・ 寺田寅彦 「田園雑感」
・・・実際、少々拙ない改新でも完全なる習俗に優ることがしばしばあるという事実を人は往々にして忘れがちなものである。 寺田寅彦 「二科展院展急行瞥見記」
・・・ これもある意味では世界中の文明人が今現にやっている習俗と同じ事である。 三五九頁にはこんな事がある。 債務者が負債を払わないで色々な口実を設けて始末のわるい場合がある。そういう場合に債権者は債務者の不意を襲うてその身辺に円を画・・・ 寺田寅彦 「マルコポロから」
・・・こっちから頼みはしないので、先方から勝手に寄こすくらいの酔興的な閑文字すなわち一種の意味における芸術品なのだから、もし我々の若い時分の気持で書くとすれば、天下の英雄君と我とのみとまで豪がらないにせよ、習俗的に高雅な観念を会釈なく文字の上に羅・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
・・・扨又結婚の上は仮令い命を失うとも心を金石の如くに堅くして不義するなとは最も好き教訓にして、男女共に守る可き所なれども、我国古来の習俗を見れば、一夫多妻の弊は多くして、一妻多夫の例は稀なるゆえ、金石の如き心は特に男子の方にこそ望ましけれ。然る・・・ 福沢諭吉 「女大学評論」
出典:青空文庫