・・・西洋文明の諸国においても皆然らざるはなきその中についても、日本の如きは最も甚だしきものにして、古来の習俗、一男多妻を禁ぜざるの事実を見ても、大概を窺い見るべし。西洋文明国の男女は果たして潔清なりやというに、決して然らず、極端について見れば不・・・ 福沢諭吉 「日本男子論」
・・・対立の社会にあっては支配階級のイデオロギーの侵害を多く受けているものであり、特に日本のように封建性の重いきずなが男女を圧しているところでは、女の性的受動性、男に対する自主的な選択権が隷属的に考えられる習俗をもっているのであるから、新しい社会・・・ 宮本百合子 「新しい一夫一婦」
・・・ 作者が独立教会からも脱退し、キリスト教信者の生活、習俗に対して深い反撥を感じていた時、「或る女」が着想されたことは私どもにとって興味がある。作者は葉子を環境の犠牲と観た。日清戦争の日本に於けるブルジョア文化の一形態であったキリスト教婦・・・ 宮本百合子 「「或る女」についてのノート」
・・・云々と一方的にだけいっていて、そのような婦人が存在する社会の他の現実関係として、当時の男性が婦人に対して持っていた習俗なり態度なりについては、男自身のこととしてまるで省察の内にとりあげていないのは興味があるところではなかろうか。婦人の知って・・・ 宮本百合子 「異性の間の友情」
・・・ もし日本の習俗の中で男性というものが女性にとって、良人候補者、あるいは良人という狭い選択圏の中でばかりいきさつをもって来るものでなかったら、異性の間の友情について常に何かロマンティックな色どりを求めるいくらか病的な感傷性も、きっとずい・・・ 宮本百合子 「異性の友情」
・・・あらゆる芸術の分野でごく少数の卓抜な選良たちは常に主観と客観とを二つのものに分けて扱う習俗を跨ぎこして、真実の核心に迫って行っている。主観的な時代には特にそのことの価値が考えられるのである。〔一九四一年五月〕・・・ 宮本百合子 「ヴォルフの世界」
・・・過去の雄々しい作曲家たちが、平民の生れで、諸公たち、諸紳士淑女たちの習俗に常に居心地わるがりながら、しかも僅に、その諸公、諸紳士淑女をもよろこばせる範囲の諧謔に止っていたのだとすれば、明日の作曲家たちの宇宙は、この方面にも勇ましくひろげられ・・・ 宮本百合子 「音楽の民族性と諷刺」
・・・日本の家庭の中に根づよい男の威張りや主張の癖に対して、こういう今日の若い人の心理は、事実上決してより新しく寛闊な家庭生活の習俗を生み出してゆくモメントとはならないのである。 菓子を食べるにしろ、店の飾窓に大きいパイが並んでいて家へみんな・・・ 宮本百合子 「家庭と学生」
・・・社会関係に対して動的な女性、単に習俗にしたがうよりも自分にとって人生の原則と感じられる動機によって行為を選択して生きる女性。ロマン・ロランは、アンネットによって、最も現代史を積極的に生きとおす可能をもった女性の発端の歩みを示したと思われる。・・・ 宮本百合子 「彼女たち・そしてわたしたち」
・・・彼女を生んだポーランドの生活、彼女を活動させたフランスの社会の習俗、それらのことは彼女の卓抜な性格、資質と切るに切れない関係をもって、偉大な仕事を成就させている。彼女が女であって或る人類的な努力を貫徹したことは、今日の現実の中で何と云っても・・・ 宮本百合子 「寒の梅」
出典:青空文庫