・・・われに等しき避難者は、男女老幼、雨具も無きが多く、陸続として、約二十町の間を引ききりなしに渡り行くのである。十八を頭に赤子の守子を合して九人の子供を引連れた一族もその内の一群であった。大人はもちろん大きい子供らはそれぞれ持物がある。五ツにな・・・ 伊藤左千夫 「水害雑録」
・・・殊に欧風の晩食を重ずることは深き意味を有するらしい、日中は男女老幼各其為すべき事を為し、一日の終結として用意ある晩食が行われる、それぞれ身分相当なる用意があるであろう、日常のことだけに仰山に失するような事もなかろう、一家必ず服を整え心を改め・・・ 伊藤左千夫 「茶の湯の手帳」
・・・ あれはもう初夏の頃で、そろそろれいの中小都市爆撃がはじまって、熱海伊東の温泉地帯もほどなく焼き払われるだろうということになり、荷物の疎開やら老幼者の避難やらで悲しい活気を呈していた。その頃の事だが、或る日、昼飯後の休憩時間に、僕は療養・・・ 太宰治 「雀」
・・・当人の顔だけ写ってしゃべるのよりも、たとえば仮り小屋の壇上に立っておおぜいの老幼男女に囲まれているほうがいかにもアメリカの大統領になっている。周囲のアメリカン・シチズンスの不用意な表情姿態の上に反映したフーヴァーのほうがはるかに多くフーヴァ・・・ 寺田寅彦 「映画時代」
・・・文人画の元祖である中華民国でも、美術の本場であるフランスでも、一般人士の間にはたして日本の老幼男女に共通な意味でのよい景色を賞観する心持ちがあるかどうかわからない。少なくもアメリカの百万長者がアルプスの空気と光線に健康とエネルギーを求めて歩・・・ 寺田寅彦 「カメラをさげて」
・・・路で出合う老幼は、皆輿を避けてひざまずく。輿の中では閭がひどくいい心持ちになっている。牧民の職にいて賢者を礼するというのが、手柄のように思われて、閭に満足を与えるのである。 台州から天台県までは六十里半ほどである。日本の六里半ほどである・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
出典:青空文庫