・・・考えれば考えるほど、大変な事になっちまっているわ。何から何まで、わたしはお前さんの通りに為込まれてしまっているわ。癖まで同じようにされているわ。なんの事はない。お前さんの魂がわたしの魂の中へ、丁度蛆が林檎の中へ喰い込むように喰い込んで、わた・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:森鴎外 「一人舞台」
・・・もするような事があると、おばあさんは以前のような、小さい、言う事をきく子どもにしようと思っただけで、即座にちっぽけに見る事もできましたし、孫たちがよちよち歩きで庭に出て来るのを見るにつけ、そのおい先を考えると、ワン、ツー、スリー、拡大のガラ・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎 「真夏の夢」
・・・長兄は、ちょっと考える振りをして、「よし、それにしよう。なるべく、甘い愛情ゆたかな、綺麗な物語がいいな。こないだのガリヴァ後日物語は、少し陰惨すぎた。僕は、このごろまた、ブランドを読み返しているのだが、どうも肩が凝る。むずかしすぎる。」率直・・・ 太宰治 「愛と美について」
・・・軍医が来てくれればいいと思ったが、それを続けて考える暇はなかった。新しい苦痛が増した。 床近く蟋蟀が鳴いていた。苦痛に悶えながら、「あ、蟋蟀が鳴いている……」とかれは思った。その哀切な虫の調べがなんだか全身に沁み入るように覚えた。 ・・・ 田山花袋 「一兵卒」
・・・特に彼の人種の事までも取り立てて考えるほどの事ではないと思われる。 夜はよく眠るそうである。神経のいらいらした者が、彼のような仕事をして、そしてそれが成効に近づいたとすればかなり興奮するにちがいない。勝手に仕事を途中で中止してのんきに安・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・っときゃしゃな体の持主で、感じも瀟洒だったけれど、お客にお上手なんか言えない質であることは同じで、もう母親のように大様に構えていたのでは、滅亡するよりほかはないので、いろいろ苦労した果てに細かいことも考えるようになってはいたが、気立ては昔し・・・ 徳田秋声 「挿話」
・・・その古幹と樹姿とを見て考えると、真間の桜の樹齢は明治三十年頃われわれが隅田堤に見た桜と同じくらいかと思われる。空襲の頻々たるころ、この老桜が纔に災を免れて、年々香雲靉靆として戦争中人を慰めていたことを思えば、また無量の感に打れざるを得ない。・・・ 永井荷風 「葛飾土産」
・・・すべての牌と名のつくものがむやみにかちかちしていつまでも平気に残っているのを、もろうた者の煙のごとき寿命と対照して考えると妙な感じがする。それから二階へ上る。ここにまた大きな本棚があって本が例のごとくいっぱい詰まっている。やはり読めそうもな・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・しかし一面には我々の国語の自在性というものを考えることもできる。私は復古癖の人のように、徒らに言語の純粋性を主張して、強いて古き言語や語法によって今日の思想を言い表そうとするものに同意することはできない。無論、古語というものは我々の言語の源・・・ 西田幾多郎 「国語の自在性」
・・・学校時代のことを考えると、今でも寒々とした悪感が走るほどである。その頃の生徒や教師に対して、一人一人にみな復讐をしてやりたいほど、僕は皆から憎まれ、苛められ、仲間はずれにされ通して来た。小学校から中学校へかけ、学生時代の僕の過去は、今から考・・・ 萩原朔太郎 「僕の孤独癖について」
出典:青空文庫