・・・ 子供の読みものを書く大人の感情のうちにある幾通りかの感傷を、これからのその分野で活動しようとする人々は、真面目に考察し直し、そのような沈湎の中から歩み立って来なければなるまいと思う。 大人は子供の世界を心に描くとき、現在大人として・・・ 宮本百合子 「子供のためには」
・・・にもがいている、そのせつなさ、その叫びが精一杯であって、どうして生活のボートはひっくりかえされたのか、漕ぎての責任よりもあるいはボートそのものが、にせボートをつかまされていたのかもしれない、などという考察は、系統づけてされているゆとりがない・・・ 宮本百合子 「『この果てに君ある如く』の選後に」
・・・ 今日の文化と文学の問題としてこの苦しい相互のいきさつは非常に真面目に考察されなければならないことだろうと思う。作者はそれぞれ沈潜勇往して、この状況を拓いてゆくために労を惜んではならないのだろうと思う。 もし浅薄に、旧いしきたりに準・・・ 宮本百合子 「今日の作家と読者」
・・・その旗頭としての日本ロマン派の人々の文章の特徴は、全く美文調、詠歎調であって、今日では保守な傾きの国文研究者でさえ一応はそれを行っている文学作品の背景としての歴史的の時代考察、文学の環境の分析等は除外されていることに注目をひかれる。 明・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・そして、緻密な理論的考察と、自由な心の持つ新鮮な覇気とは、アメリカを毒す、余りに群衆的な輿論から毅然として、彼女の道をよき改革へ進めますでしょう。 斯ういう婦人の裡には、真個に跪拝すべきよき力が漲って居ると思います。時には、うんざりさせ・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 今年のしめくくりとして考察するなら、私たちは慎重に、この上下動と水平動との間にある角度の本質を見きわめなければならないのではあるまいか。 そこに或る開き、殆ど直角の開きが存在するということを視るだけでは不足と思う。二つの運動の間で・・・ 宮本百合子 「昭和十五年度の文学様相」
・・・しかも、それは、文学に於けるいかなる分野が、素質が、属性が、総ゆる文学の方向から共通に考察されねばならないか。これがわれわれの新しい問題となるべきであろう。「われわれには、そんな暇はない。」と云うものは云うであろう。しかし、文学はそ・・・ 横光利一 「新感覚派とコンミニズム文学」
・・・いかな時といえども俺はただ俺の考察の対象としてよりほかに外象をながめてはならないのだ」。さよう、それが木下の享楽の一つの特徴である。彼は白墨で線を画して、その中で美を享楽する。その享楽は実によく行き届いている。が、その線の外に出ることを彼は・・・ 和辻哲郎 「享楽人」
・・・ 特に私は今、千数百年以前の我々の祖先の心境を心中に描きつつ、この問題を考察するのである。 まず私は、人間の心のあらゆる領域、すなわち科学、芸術、宗教、道徳その他医療や生活方法の便宜などへの関心等によって代表せられる人間の生のあ・・・ 和辻哲郎 「偶像崇拝の心理」
・・・この関係を示すものとして、たとえば神代神楽を能と比較しつつ考察してみるがよい。同じ様式の女の面が能の動作と神楽の動作との相違によっていかにはなはだしく異なったものになるか。能の動作の中に全然見られないような、柔らかな、女らしい体のうねりが現・・・ 和辻哲郎 「面とペルソナ」
出典:青空文庫