・・・――彼も、ヴィクトリア時代の考証癖を脱し切れず、自分がこれはどう感じ見るかと思うより先に、シェークスピアやホーマーの文句を思い出し、そのものを徹し、その描写にまとめて、自分の直観に頼らない、第二流文学者――否、芸術家的素質しか持たなかったか・・・ 宮本百合子 「無題(四)」
・・・こんな作に考証も事々しいが、他日の遺忘のためにただこれだけの事を書き留めておく。 大正元年九月十八日 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書(初稿)」
・・・これは岡場所の沿革を考証したものである。真国は唐様の手を見事に書いた。職業は奉行所の腰掛茶屋の主人であった。柴田是真は気きがいのある人であった。香以とは極めて親しく、香以の摺物にはこの人の画のあるものが多い。是真の逸事にこう云う事がある。あ・・・ 森鴎外 「細木香以」
・・・新井白石は本多家から頼まれてその考証を書いているが、結論はどうも言葉を濁しているように思われる。しかしそれがいずれであっても、同一書を媒介として惺窩、蕃山、本多佐渡守の三人の名が結びついているという事実は、非常に興味深いものである。 本・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫