・・・を以てはじまる小説本来の面白さがあったとでもいうのか。脂っこい小説に飽いてお茶漬け小説でも書きたくなったというほど、日本の文学は栄養過多であろうか。 正倉院の御物が公開されると、何十万という人間が猫も杓子も満員の汽車に乗り、電車に乗・・・ 織田作之助 「可能性の文学」
・・・しかしカーライルの庵はそんな脂っこい華奢なものではない。往来から直ちに戸が敲けるほどの道傍に建てられた四階造の真四角な家である。 出張った所も引き込んだ所もないのべつに真直に立っている。まるで大製造場の煙突の根本を切ってきてこれに天井を・・・ 夏目漱石 「カーライル博物館」
・・・同時代の作家たちは、次第にバルザックの文学業績の規模の大さ、主題の独特性は感じつつも、彼の時代おくれな正統王党派ぶり、貴族好み、趣味の脂っこい卑俗さ、そして、小説の文章が、格調もなければ、整理もされていず、時に我慢ならなく下手であるというよ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
出典:青空文庫