・・・ 気がついて見ると、僕は、書斎のロッキング・チェアに腰をかけて St. John Ervine の The Critics と云う脚本を読みながら、昼寝をしていたのである。船だと思ったのは、大方椅子の揺れるせいであろう。 角顋は、久・・・ 芥川竜之介 「MENSURA ZOILI」
・・・――…………………それで主人は、詩をつくり、歌を読み、脚本などを書いて投書をするのが仕事です。画家 それは弱りましたな。けれど、末のお見込はありましょう。夫人 いいえ、その末の見込が、私が財産を持込みませんと、いびり出されるばか・・・ 泉鏡花 「山吹」
・・・少し込み入った脚本を書きたいので、やかましい宿屋などを避けたのである。隣りが料理屋で芸者も一人かかえてあるので、時々客などがあがっている時は、随分そうぞうしかった。しかし僕は三味線の浮き浮きした音色を嫌いでないから、かえって面白いところだと・・・ 岩野泡鳴 「耽溺」
・・・この間に立って論難批評したり新脚本を書いたりするはルーテルが法王の御教書を焼くと同一の勇気を要する。『桐一葉』は勿論『書生気質』のようなものではない。中々面白い。花見の夢の場、奴の槍踊の処は坪内君でなくてアレほど面白く書くものは外にあるまい・・・ 内田魯庵 「明治の文学の開拓者」
・・・こなせるので、例えば彼の書いた新聞小説が映画化されると、文壇の常識を破って、自分で脚色をし、それが玄人はだしのシナリオだと騒がれたのに気を良くして、次々とオリジナル・シナリオを書いたのをはじめ、芝居の脚本も頼まれれば書いて自分で演出し、ラジ・・・ 織田作之助 「鬼」
・・・高等学校にいた頃、脚本朗読会をやってわざわざ友田恭助を東京から呼び、佐伯は女役になってしきりにへんな声を出し、友田は特徴のある鼻声をだし、終って一緒に記念写真を写したこともある。コトコトと動いていなければ気の済まない友田は写真をうつす時もひ・・・ 織田作之助 「道」
・・・ 高等学校は三高、山本修二先生、伊吹武彦先生など劇に関係のある先生がいて、一緒に脚本朗読会をやって変な声をだしていた。そういう関係から劇に志したのには無論違いないだろうけれど、しかし、中学校の三年生の時の作文に、股旅物の戯曲を書いて叱ら・・・ 織田作之助 「わが文学修業」
・・・しかるにその脚本にはその田舎くさい、正直なのを同情するよりは、嘲笑する気味がありありと現われて居ます。時代の風潮は左母二郎のようなのを愛して居るのであります。また、谷峨という作者の書いたものや、振鷺亭などという人の書いたものを見ますれば、左・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・それをもう少し具体的な脚本すなわちシナリオに発展させる。しかしそれではまだすぐに撮影はできない。シナリオに従って精細な撮影台本が作られなければならない。それには撮影さるべき対象選定はもちろんそれがいかなる条件においていかに撮影さるべきかが具・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・といっしょに飯を食いながらこの歌舞伎座見物の話をして、どうもどの芝居もみんな、もうひと息というところまで行っていながら肝心の最後のひと息が足りないような気がするという不平をもらしたら、T君は、畢竟いい脚本がないからだろうと言った。実際ほんと・・・ 寺田寅彦 「自由画稿」
出典:青空文庫