・・・ 一郎はそこで鉄棒の下へ行って、じゃみ上がりというやり方で、無理やりに鉄棒の上にのぼり両腕をだんだん寄せて右の腕木に行くと、そこへ腰掛けてきのう三郎の行ったほうをじっと見おろして待っていました。谷川はそっちのほうへきらきら光ってながれて・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・何とも云えずさびしい気がしてぼんやりそっちを見ていましたら向うの河岸に二本の電信ばしらが丁度両方から腕を組んだように赤い腕木をつらねて立っていました。「カムパネルラ、僕たち一緒に行こうねえ。」ジョバンニが斯う云いながらふりかえって見まし・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
・・・ そこで軽便鉄道づきの電信柱どもは、やっと安心したように、ぶんぶんとうなり、シグナルの柱はかたんと白い腕木を上げました。このまっすぐなシグナルの柱は、シグナレスでした。 シグナレスはほっと小さなため息をついて空を見上げました。空には・・・ 宮沢賢治 「シグナルとシグナレス」
・・・「ドッテテドッテテ、ドッテテド、 寒さはだえをつんざくも などて腕木をおろすべき ドッテテドッテテ、ドッテテド 暑さ硫黄をとかすとも いかでおとさんエボレット。」 どんどんどんどんやって行き、恭一は見てい・・・ 宮沢賢治 「月夜のでんしんばしら」
・・・彼は藍子のかけている待合室のベンチの腕木にちょっと斜かいに腰かけ、片肱にステッキをかけ、派手な箱から一本その金口をぬき、さも旅立ちの前らしい面持ちで四辺を眺めながら火をつけた。 尾世川は数日前にやっと、不二子を九州の夫のところへ向けて立・・・ 宮本百合子 「帆」
出典:青空文庫