・・・「そんな事をおっしゃっては、いくら少将でも御腹立ちになりましたろう。」「いや、怒られれば本望じゃ。が、少将はおれの顔を見ると、悲しそうに首を振りながら、あなたには何もおわかりにならない、あなたは仕合せな方ですと云うた。ああ云う返答は・・・ 芥川竜之介 「俊寛」
・・・るとそもやわたしが馴れそめの始終を冒頭に置いての責道具ハテわけもない濡衣椀の白魚もむしって食うそれがし鰈たりとも骨湯は頂かぬと往時権現様得意の逃支度冗談ではござりませぬとその夜冬吉が金輪奈落の底尽きぬ腹立ちただいまと小露が座敷戻りの挨拶も長・・・ 斎藤緑雨 「かくれんぼ」
・・・ その日はもう夏の来るのに間のない時であったそうで気ままなその人は夏の来るのがあまりおそいと申してのう、腹立ちまぎれに薬師に申しつけて三日三小夜眠りつづける薬をつくらせてそれをのむなりまるで息をせいで深く眠りこんでしまいましたのじゃ。・・・ 宮本百合子 「胚胎(二幕四場)」
・・・ ヴェランダの降口まで足早に去って、桃子はそこからもう一度こっちへ顔をふり向け、腹立ちより寥しい気分で遠ざかってゆくその姿を見送っていた多喜子に向って、手をふった。 シモーヌ・シモンがディアンヌという裏町の娘に扮し、ジェームス・スチ・・・ 宮本百合子 「二人いるとき」
・・・縁談の場合、男だけが虫のよい註文をつける腹立ち、仮装とトリックとで娘さんに対する仲人というものへの侮蔑の感情、それらはみな若い美しい潔癖であり、つよく娘さんの側から社会的な態度として主張されてゆかなければならない点であると思う。けれども、「・・・ 宮本百合子 「若い婦人の著書二つ」
・・・或る者は、幾分当惑げな寛大さと興味深げな観察眼を以て、或る者は、女性の盲目的な熱情、素晴らしい肉体、小さい頭に絶望的な腹立ちや、驚歎や悲しみ、同情を感じながら。ルノアルの描く女性は何と愛らしいだろう。彼女達は、皆膨っ面をしている時でも、決し・・・ 宮本百合子 「わからないこと」
出典:青空文庫