・・・ と屹といったが、腹立つ下に心弱く、「御坊さんに、おむすびなんか、差上げて、失礼だとおっしゃるの。 それでは御膳にしてあげましょうか。 そうしましょうかね。 それでははじめから、そうしてあげるのだったんですが、手はなし、・・・ 泉鏡花 「海異記」
・・・現に斎藤でさえ、わたしがこの間、逢ったら、 いや腹立つどころではない、僕も一人には死なれ一人には去られ、こうと思いこんで来てくれる女がほしいと思っていたところでしたから、かえっておとよさんの精神には真から敬服しています。 どうです、・・・ 伊藤左千夫 「春の潮」
・・・ 腹を立てる、腹立つというのはあて字であろうと思われる。サンスクリトの krudhyati のkをhで置き換えるとともかくも hrdt という音列を得られる。これを haradati の子音と比べると同一である。偶然とするとかなり公算の・・・ 寺田寅彦 「言葉の不思議」
出典:青空文庫