・・・大名あるも、大名はすなわち大名にして毫も譲るところなかりしも、畢竟瘠我慢の然らしむるところにして、また事柄は異なれども、天下の政権武門に帰し、帝室は有れども無きがごとくなりしこと何百年、この時に当りて臨時の処分を謀りたらば、公武合体等種々の・・・ 福沢諭吉 「瘠我慢の説」
・・・その前の日はあの水沢の臨時緯度観測所も通った。あすこは僕たちの日本では東京の次に通りたがる所なんだよ。なぜってあすこを通るとレコードでも何でもみな外国の方まで知れるようになることがあるからなんだ。あすこを通った日は丁度お天気だったけれど、そ・・・ 宮沢賢治 「風野又三郎」
・・・砲弾にて破損せる古き穀倉の内部、辛くも全滅を免かれしバナナン軍団、マルトン原の臨時幕営。右手より曹長先頭にて兵士一、二、三、四、五、登場、一列四壁に沿いて行進。曹長「一時半なのにどうしたのだろう。バナナン大将・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・の晩の処にでなしに、おじいさんのとまる処よりももっと高いところで小さな枝の二本行きちがい、それからもっと小さな枝が四五本出て、一寸盃のような形になった処へ、どこから持って来たか藁屑や髪の毛などを敷いて臨時に巣がつくられていました。その中に穂・・・ 宮沢賢治 「二十六夜」
・・・処々の大工場、実務学校などで熟練工の養成、再教育をしている中には、専門学校出の若い婦人を新たに機械工業のための製図師として再教育している実例もある。臨時工として種々の官営、民営工場に雇われ、工業部門に参加するようになって来た女の数はおびただ・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・ 特別議会が終ったが、ここで臨時増税が決定した。新たに増税されるものの種目に、写真機及その附属品、原料というのがある。フィルム、原像液、引延機、みんな其々に税がかかるのであろう。写真機の大衆化は、その生産過程の特殊性から或る方面の支持に・・・ 宮本百合子 「カメラの焦点」
・・・只今開催中の臨時議会は、戦争犯罪人の摘発に脅かされて、新聞はおのずから諷刺的に彼等の恐慌を語っている。社会生活の破壊がもたらす様々な辛苦を、家庭で婦人は自身の皸のきれた手によって知っている。婦人の参政権どころか、「食べることの方が忙しい」と・・・ 宮本百合子 「現実に立って」
・・・│ └───────┘ この歴史的なスローガンは、一九一七年の二月革命の当時、ケレンスキーの臨時政府も一応はかかげた。ともかく、それによって革命的な農民の支持を得なければ政府は一日の安きをも得ない情勢であった。が、ケレンスキーの・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・夜気の中でもそのほとぼりと亢奮がさめ切っていないところどころで、臨時施設の飲料水道の噴水があふれて、小さいぬかるみをこしらえている。新手な群集は子供や年寄づれで、ぞろぞろ河岸へ河岸へとねって行く。 国立百貨店の前、赤いプラカートの洪水だ・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
・・・その臨時汽車はすぐ前日から運転し始めたのだった。「こいつは運がいい。」と私は思った。しかし時間を勘定してみてやはり一時間ばかり待たなければならない事がわかると、私の心はまた元へ戻り始めた。「何だ、こんな事で埋め合わせをするのか、畜生め。」私・・・ 和辻哲郎 「停車場で感じたこと」
出典:青空文庫