・・・きたならしいニッコリね、にくまれ口だけは御自筆。書いて字をみたら大笑いをしてしまった。だってきたならしいと書きながら、その字といったら! ペンさん曰く、「全体こんな字ばかりだったらどんなでしょう!」と。多分あなたは肩がこっておしまいになるわ・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 村山知義さんの自筆の插画をみていて、わたしは、このマイヨールの「とげ」の飾られていた工合を思い浮べた。「結婚」のさし絵は男が描いたものだという点にこだわって考えないにしろ、一般に、いまの人間感覚のうちに、文化の感覚のうちにこういうパン・・・ 宮本百合子 「さしえ」
・・・一日 風の強い、始めての蝉の声 夏らしい日 七月三十一日 福井に来 九月一日 大地震 四日 四時五十分出発 五日 午後九時半 田端 六日 国男より 自筆の手紙 亢奮して居る英・・・ 宮本百合子 「「伸子」創作メモ(二)」
・・・という題と名だけはひろ子の自筆でかかれている三十枚ほどの小説を、重吉は怪訝そうに、ところどころよんだ。「誰かに写させたのかい?」「文学報国会で、戦争中、作品集を出す計画があったんです。そのとき、わたしも会員だったから、作品一篇自選し・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・お蝶の名だけはお蝶が自筆で書いている。文面の概略はこうである。「今年の暮に機屋一家は破産しそうである。それはお蝶が親の詞に背いた為めである。お蝶が死んだら、債権者も過酷な手段は取るまい。佐野も東京には出て見たが、神経衰弱の為めに、学業の成績・・・ 森鴎外 「心中」
出典:青空文庫