・・・六年と五年の女生徒が連合で四組舞踏を踊った。先生も無心、生徒も無心、少し退屈を感じながら藤の花の散る下で、オルガンに合わせ、 一二三四、五六七八 一二三四、五六七八 先生は男で白縮の襯衣だ。そのような伸びたり縮んだり輪になる・・・ 宮本百合子 「毛の指環」
・・・ 毎晩九時過ぎると、まだ夜と昼との影を投じ合った鳩羽色の湖面を滑って、或時は有頂天な、或時は優婉な舞踏曲が、漣の畳句を伴れて聞え始めます。すると先刻までは何処に居たのか水音も為せなかった沢山の軽舸が、丁度流れ寄る花弁のように揺れながら、・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 一汗小母さんがかいて自分の賞品のわきへどくと、音楽は一寸止み、今度は火花の散るような急調な舞踏曲がはじまった。踊り達者で名うてのオリガが、重い防寒靴をはいているとは信じられない身軽さで、つと輪の真中にでた。機械工体育部水泳選手のドミト・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の三月八日」
・・・喋ったり、遊戯をしたり、一緒に舞踏をしたりして、多数の中で先ず交際が始ります。種々な傾向や種類の人中で自ら他と比較すれば、彼、或は彼女が、どんな性格、傾向であるか漠然とでも予測がつきましょう。 彼地のように、会合と云えば極特殊なものでな・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・タータタタと空に響くオルガンのメロディーにつれて、えび茶や紫紺の袴をつけた六十人ほどの少女が、向い会って、いっせいにヨーロッパ風に膝をかがめ、舞踏の挨拶をするのであった。その運動場は、トタン塀にかこまれていて、黒板塀の方に桜の樹が並んでいた・・・ 宮本百合子 「藤棚」
・・・ダービーシアに別邸があり、次第に若い令嬢として成長して来たフロレンスの生活は、子供部屋から客間へ、舞踏の広間へと移って行った。どこか気性に独創的なところのある、富裕な教養たかいこの令嬢のまわりには、当然崇拝者の何人かが動いていたろうしまたど・・・ 宮本百合子 「フロレンス・ナイチンゲールの生涯」
・・・「ナターシャがはじめての舞踏会へ行ってむかれて現れる」面白さを思い出す。 丸っこい体の伸子さえ小さい女になって外套のなかからあらわれた。そして、ザールをぐるぐる歩きまわる。○急にみかんの匂いがする 平土間の席、○レー・・・ 宮本百合子 「無題(十三)」
・・・その位だから舞踏なんぞをしたことはない。或る時舞踏の話が出て、傍の一人が僕に舞踏の社交上必要なわけを説明して、是非稽古をしろと云うと、今一人が舞踏を未開時代の遺俗だとしての観察から、可笑しいアネクドオト交りに舞踏の弊害を列べ立てて攻撃をした・・・ 森鴎外 「百物語」
・・・ このときまことの舞踏はじまりて、群客たちこめたる中央の狭きところを、いと巧みにめぐりありくを見れば、おおくは少年士官の宮女たちをあい手にしたるなり。わがメエルハイムの見えぬはいかにとおもいしが、げに近衛ならぬ士官はおおむね招かれぬもの・・・ 森鴎外 「文づかい」
・・・まだ覚えておいでなさるか知りませんが、いつでしたかあなたが御亭主と一しょに舞踏会に往くとおっしゃった時、わたくしは夢中になっておこったことがありますね。わたくしはあの写真の男に燕尾服がどんなに似合うだろうと想像すると、居ても立っても居られな・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
出典:青空文庫