・・・○僕は新小説の九月号に「芋粥」という小説を書いた。○まだあき地があるそうだから、もう少し書く。松岡の手紙によると、新思潮は新潟県にまじめな読者をかなり持っているそうだ。そうしてその人たちの中には、創作に志している青年も多いそうだ。ひ・・・ 芥川竜之介 「校正後に」
・・・彼は彼自身の勉強の外にも「芋粥」と云う僕の短篇の校正刷を読んでくれたりした。……… そのうちにいつかO君は浪打ち際にしゃがんだまま、一本のマッチをともしていた。「何をしているの?」「何ってことはないけれど、………ちょっとこう火を・・・ 芥川竜之介 「蜃気楼」
・・・ 祖母は、風邪には温いものがいいだろうと云って、夕飯に芋粥を煮た。京一は、芋粥ばかりを食い、他の家族は、麦飯に少しの芋粥を掛けてうまそうに食った。「飯食う時だけは、その頬冠りを取れえ!」 と、祖母は云ったが、父母は、じろりと彼を・・・ 黒島伝治 「まかないの棒」
・・・「鼻」「芋粥」「羅生門」のようなものであったことも考えさせるものを持っている。「侏儒の言葉」の中で「どうか勇ましい英雄にして下さいますな。」「わたしは竜と闘うように、この夢と闘うのに苦しんで居ります。どうか英雄とならぬように――英雄の志を起・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・わしがところではさしたる饗応はせぬが、芋粥でも進ぜましょう。どうぞ遠慮せずに来て下されい」男は強いて誘うでもなく、独語のように言ったのである。 子供の母はつくづく聞いていたが、世間の掟にそむいてまでも人を救おうというありがたい志に感ぜず・・・ 森鴎外 「山椒大夫」
出典:青空文庫