・・・格子の中から、赤い襟をかけ白粉をつけた一太より少し位大きい女の子が出て来る、そういうとき、その女の子も黙ってお金を出すし、一太も黙って納豆の藁づとと辛子を渡す、二人の子供に日がポカポカあたった。 家によって、大人の女が出て来た。「お・・・ 宮本百合子 「一太と母」
・・・今も『鰐』という諷刺雑誌が出ているかどうかわからないけれども、これも辛子のきいた諷刺雑誌であった。自己批判としての諷刺は、自己批判を発展のモメントとしてはっきりつかんでいるソヴェトの生活感情の中では、自然で健全なあり場所をもってきた。 ・・・ 宮本百合子 「政治と作家の現実」
・・・ 目の下にはあの芥だらけの内海の渚がはてしなくつづいて、会う女の大抵は見っともなくお白粉をぬった女か魚臭い女で――。「おむつ」がハタハタひらめくと魚の臭いがプーンと来る、もうほんとうにたまらない。 やっぱりあすこの方が好いからも・・・ 宮本百合子 「千世子(二)」
・・・このごろの上下の衆のもどらるゝ 去来腰に杖さす宿の気ちがひ 芭蕉二の尼に近衛の花のさかりきく 野水蝶はむぐらにとばかり鼻かむ 芭蕉芥子あまの小坊交りに打むれて 荷・・・ 宮本百合子 「芭蕉について」
出典:青空文庫