・・・私は肝をつぶし、そしてカッとなりましたが、その腹の虫を押えるために飲んだ酒と花代で、私が白浜から持ってきた金はほとんどなくなってしまい、ふらふらと桔梗屋を出たのは、あくる日の黄昏前だった。私は太左衛門橋の欄干に凭れて、道頓堀川の汚い水を眺め・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
・・・がにバサバサの頭を水で撫で付け、襟首を白く塗り、ボロ三味線の胴を風呂敷で包んで、雨の日など殆んど骨ばかしになった蛇の目傘をそれでも恰好だけ小意気にさし、高下駄を履いて来るだけの身だしなみをするという。花代は一時間十銭で、特別の祝儀を五銭か十・・・ 織田作之助 「世相」
・・・ヤトナというのはいわば臨時雇で宴会や婚礼に出張する有芸仲居のことで、芸者の花代よりは随分安上りだから、けちくさい宴会からの需要が多く、おきんは芸者上りのヤトナ数人と連絡をとり、派出させて仲介の分をはねると相当な儲けになり、今では電話の一本も・・・ 織田作之助 「夫婦善哉」
・・・お絹は言ったが、「お料理の方は辰之助さんがお持ちやそうですし、花代といったところで、たんともないさかえ」「そうはゆかない。勘定は勘定だ。だいぶ長くなったから、もうそろそろ御輿をあげるとしよう」「お仕事はもうおしまいですか。何だかちょ・・・ 徳田秋声 「挿話」
出典:青空文庫