・・・ 実に、厭味、苦しめる暗示で、大勢の中で、神経的に云われる。云われた者は、教えられた感謝より、いつも、苦々しい悪感、恥かしさ、敵慨心を刺戟されるように扱われるのである。 中には、一人二人、特にいつも目をつけられ、ことごとに冷笑を浴び・・・ 宮本百合子 「追想」
・・・ ○何時も旅行にさえ出ると、きっと自分を苦しめる陰鬱さ。 今日も私は苦しい悲しい心持がして居る。すっかり自分がむき出しになって、自分の前へ来るような気がする。苦しいけれども、自分にはきっとためになるだろう。自分を凝視して行く力。・・・ 宮本百合子 「「禰宜様宮田」創作メモ」
・・・「こんなに苦しいのに、まだあたしを、苦しめるつもりかしら。」 今は、彼には彼女の死を希う意志が怨めしかった。「もうちょっとの辛抱さ。直き苦しくなくなるよ。」「あ、もう、あなたの顔が、見えなくなった。」と妻はいった。 彼は・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・他のことは、何をしても苦しめるばかりですね。もう、ほッとして。」 青葉に射し込もっている光を見ながら、安らかに笑っている栖方の前で、梶は、もうこの青年に重要なことは何に一つ訊けないのだと思った。有象無象の大群衆を生かすか殺すか彼一人の頭・・・ 横光利一 「微笑」
・・・二 かつて親しくIやJやKなどに友情を注いだという記憶が私を苦しめる。彼らを「愛した」ゆえに悔やむのではない。「彼らの内に」自分を見いだしたことがたまらなくいやなのである。しかし私は自分の内に彼らと共鳴するもののあったことを・・・ 和辻哲郎 「転向」
出典:青空文庫