・・・その苦痛が、そう云う運命にあの男を陥いれたのであろう。そこでこうして、この別荘の冬の王になっている。しかし毎年春が来て、あの男の頭上の冠を奪うと、あの男は浅葱の前掛をして、人の靴を磨くのである。夏の生活は短い。明るい色の衣裳や、麦藁帽子や、・・・ 著:ランドハンス 訳:森鴎外 「冬の王」
・・・て、僕をジット抱〆ようとして、モウそれも叶わぬほどに弱ったお手は、ブルブル震えていましたが、やがて少し落着て……、落着てもまだ苦しそうに口を開けて、神に感謝の一言「神よ、オオ神よ、日々年々のこの婢女の苦痛を哀れと見そなわし、小児を側に、臨終・・・ 若松賤子 「忘れ形見」
・・・ デュウゼを見た多くの人はその芸を芸術としては見なかった。苦痛のために烈しく悩んでいる女が、感覚を失って悲鳴をあげているとしか見えない。恐ろしい現実そのものなのである。彼女は舞台の上で全然裸になっているのだ。 ヘルマン・バアルは考え・・・ 和辻哲郎 「エレオノラ・デュウゼ」
出典:青空文庫